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夏風吹いて秋風の晴れ

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土曜日の早朝に


土曜の朝にうっすらと目を開けると、目の前には直美の顔がこっちにだった。
すぐに時間はわからなかったけれど、まだ、早朝っ呼んでいい時間のはずだった。うっすらとカーテンの隙間からは陽射しが少し漏れて、部屋の隅を少し照らしていた。

昨日の晩は、2人でゆっくりと、何をするでもなく過ごしてたけど、久しぶりに部屋に続く廊下においてあった自転車を磨いていた。ものすごーく高い自転車ではなかったけど、安くもなかったし、思い出の自転車だったから2台も狭い廊下に置くのはどうかと思っていたけど、マンションの駐車場では盗まれそうで、大事に廊下にだった。直美に初めてプレゼントらしい品物がそれだったから、その気持ちまで盗まれそうで大事にしていた。
でもちろん、外を乗り回した後に部屋に入れるのには毎回掃除してからじゃないと入れられなかったから、けっこう面倒な事だったけど、慣れるとそうでもかったことだった。
直美の赤い自転車を先に磨いて、それから自分の自転車を綺麗に掃除だった。
途中で「うれしいんだけど、それってゴミおちるでしょ」って言われたけど、「掃除するから」って言って綺麗にいろんなところを拭いていた。
しばらく、ぼんやりと開けた目で、直美の顔を見ながら、そんな昨日の晩の事を考えていた。
かすかーにだけ、直美のはく息が、こっちにやわらかい風になっていた。(人って、こんなにゆっくりな息で、よく平気だなー)ってそれを見ていた。
起こさないように、ちょっとだけ首を動かして壁の時計を見ると、時間はまだ6時前で、たぶん5時50分ぐらいの位置にあった。
(目覚ましって 直美は何時にかけたんだろうー 何時にかけたの?)ってまた、顔を見て思っていた。
いつも、一緒に寝た日は直美が先におきていたから、こんな事って、いつぶりなんだか、さっぱり思い出せないでいた。
俺に見られてるとは思わないで、気持ちよさそうに寝ている直美は、出会った時から比べればきちんと大人の顔にもなったし、眉毛なんかも少し綺麗にカットしてたけど、やっぱり素顔だと、昔、体育館で一目ぼれした顔とほとんど変わってはいなかった。
(うん、性格も好きだけど、そうそう、顔も好きなんだよなぁー 最初に話したこともなかったのに好きになったんだから、そうなんだよなぁー)って思っていた。
でも、歩く姿とかも、すぐに見て好きだったし、友達と話しながら笑った顔も見た瞬間に好きだったし、それで、話したらもっと好きになったんだなぁーってだった。
「うーん」
直美の小さな声が、少しの寝返りと一緒にもれていた。
冷房のスイッチは切れていて、俺はなにもかけてないって格好だったけど、きちんと直美の体には薄手の夏がけ布団が載っていた。直美は、冷房自体は、ものすごーく嫌いってタイプではなかったけど、少し冷え性で、苦手のようだった。
夏には言わなかったけど、冬になると、「劉って暖かくていいや」って言いながら布団にもぐりこんで、くっついて寝ていたし、そんな風に冷え性なのは、こっちに来て一緒に良く寝るようになって気づいたことだった。
そんなことを考えながら、あまり動かないようにじっとしていたけど、うっすら開けた目を閉じると、ここちよくってまた、眠りにつきそうだった。俺と直美の間に、不思議なほど気持ちのいい空気でも流れているようだった。
目を閉じて意識を集中すると、直美の頬に顔をつけているようにさえ思えていた。
少しだけ、目を閉じてそんな時間を楽しんでいると、もう一度目を開けた時には、時計の針はちょうど6時をさすところだった。
おもわず、目の前にあった直美の顔に近付いてキスを、ゆっくり静かにしていた。
ほんの少しで直美が気づいて、うっすらと目を開けていた。
それから、何も言わずにずっと、キスをしていた。小さな息をみだしながら、ずっとだった。直美の髪は昨日のシャンプーの甘い香りが残っていて、いい香りだったし、パジャマの上から抱きしめた直美の体もとっても気持ちよかった。やわらかく伝わる彼女の胸もやさしい感触でとっても気持ちよかった。
瞳が語る直美の気持ちは、もっと気持ちのいいものだった。
ほんとうに 長いキスを終えて、
「おはよう」って言った時には6時10分になっていた。ちょうど直美がかけた目覚まし時計が、「おい、おい、朝なんだけどー あんたたちぃー」って言いながら、鳴った時間だった。
「おはようー」
直美が一度、離れた俺の顔に近付いて、キスを返していた。
「起きちゃった・・先に・・・」
「どうしたのよ、いつでも起きないくせに・・」
笑われながら言われていた。
「わかんないや、普通に起きたら6時前でさぁー」
「ふーん、たまには、こうして起こしてね」
「たぶん、ムリだなぁー」
「えぇー 早起きすれば、いっぱい朝からキスできるのに・・もったいないでしょ?劉ちゃん?」
ますます、笑顔で言われていた。
ちょっと返す言葉につまって、笑顔を返すのが精一杯だった。
「よし、じゃぁー 着替えて、頑張って走ろうか?」
「やっぱり・・」
「あぁー キスしたんだから、言う事ききなさいよねー まったく」
「はぃはぃ」
「今日はねー そうだなぁー 馬事公苑までってどうかなぁー」
「えっ、けっこう往復って、距離あるんじゃない?あそこって?」
へたすりゃ往復で6km以上ないかって思っていた。
「でもさ、バイトないし、叔母さんの家って10時ごろでいいなら、余裕でしょ?お馬さんとか見れたりするかもよ。それに疲れたらあそこで休憩してもいいし、物足りなかったら公園の中も走れるし」
「はぃ、えっと、疲れたら1回、馬事公苑で休憩ってのもありならいいけど・・」
「うん、じゃぁー 決まりね。早く着替えてぇー 下で準備運動もしてからね」
もう元気に立ち上がっていた直美に言われていた。
こっちは、まだ、布団の上に横になっていた。
熱がでない限り、元気な直美には勝てないって思っていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生