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夏風吹いて秋風の晴れ

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5階のマンションで


エレベーターに乗り込むと、
「ちょっと部屋に寄っていくから・・弓子ちゃんも一緒にね」
直美は、俺に言いながら、弓子ちゃんに相槌を求めて、3階のボタンと俺の部屋がある5階のボタンを押していた。
「じゃぁ、俺は部屋に先に行ってる」
たぶん、今夜の弓子ちゃんようにパジャマを取りに行くんだろうと思っていた。
返事をするとエレベーターはすぐに3階について、直美に連れられて弓子ちゃんもエレベーターの外にだった。303号室に向かって歩いていた。
1人になって、エレベーターのドアが閉じて、動き出すと、すぐに5階にたどり着いていた。
角部屋の鍵をあけると、出かけるときに、窓は開けていたけれど、部屋の中は、さすがに蒸し暑かった。
あわてて、部屋に入って、1人で「暑いなぁー」って言いながら、手にした買い物袋を持ちながら、エアコンの電源をつけていた。
30秒ほどで、かすかな風音を鳴らしながら、涼しい風が吹き出していた。ちょっとだけ、それに当たって、直美に怒られないように、買い物袋からお菓子以外を冷蔵庫に閉まっていた。
それから、あわてて、暑苦しかったワイシャツとネクタイを外していた。まったくもって、この格好といったら、夏向きではなかった。
パンツ1枚になって、それから、部屋着のお気に入りのボーダーのTシャツと短パン姿になっていた。やっぱり、夏はこれが1番だった。

「ごめん、遅くなっちゃった」
直美がドアを開けながら、弓子ちゃんと現れたのは、ソファーに寝転んで、クーラーから出ていた涼しい風を浴びながらタバコを2本も吸った後だった。手には着替えの入ったいそうな紙袋だった。
「あーぁ、弓子ちゃんいるんだから、もう少しまともなのに着替えりゃいいのに・・」
寝転んでいた、ソファーから体を起こすと直美に言われていた。後ろの弓子ちゃんは、それを聞いて少し笑っているようだった。
「まともって・・」
「短パンじゃなくて、ジャージぐらいにしなさいよ・・まったく・・」
「あんまり変わらないと思うけど」
本当にそう思っていた。
「ほら、こっちにしなさいよ」
直美が隣の部屋から、俺のグレー色のスエットパンツを持ってきて、俺の前に差し出していた。
「暑いんだけどなぁー うーん」
口では文句を言ったけど、結局、隣の部屋に入って、履き替えることにしていた。それがきっと、丸く収まることだった。口喧嘩をしてまで頑張る事でもなかった。
履き替えて、直美たちの前に戻ると、2人は仲良く、ソファーの前に横並びだった。顔は似ていなかったけど、姉妹といえば、それはそれで通りそうだった。
「劉も、コーラにする?それともアイスコーヒー?」
立ち上がって、冷蔵庫に近付きながらの直美に聞かれていた。2人のテーブルの前にはコーラが入ったコップが、もう、置かれていた。
「コーヒーにして」
俺は言いながら、テーブルを挟んで弓子ちゃんの前に座っていた。夏前に買った、青い色の小さな一人用のソファーの前にだった。
背もたれにはちょうど良かった。
「はぃ、どうぞ」
直美が氷の入ったアイスコーヒーのグラスを俺の前に差し出していた。
「ありがと・・」
冷房のリモコンを持って、風力を最強から強に落としながら答えていた。
「いいえぇー よいしょと・・」
直美が弓子ちゃんの横に、俺の前に座っていた。
「なんか、部屋すごいですね・・一緒に住めそうですけど・・」
弓子ちゃんがコーラを飲みながら口を開いていた。確かに、ここは、充分2人で住める部屋の大きさだった。茨城から東京に出てくる時に、叔父の会社というか、個人で持っているというかは、はっきりとしていなかったけど、叔父がかってに俺に相談もなく決めた部屋だったから、たしかに大学生の部屋ではなかったし、マンション自体もだった。
「そうだね、もったいないよね。叔父さんの会社の持ち物なんだけどね・・それで、安く貸してもらってるんだけどね・・」
名義は叔父さん個人の部屋だったかもしれなかったけど、詳しくは言わなかった。直美の部屋も、叔父の会社名義なのか、個人名義なのかは良くわかってはいなかった。
「そうなんですか・・いいなぁー でも、さびしくないですか、1人の時とか・・?」
「えっ、俺?うーん、そんなこと考えたことないなぁー」
本当のことだった。
「わたし、ずーっと、いつも周りに人がいっぱいだから・・」
弓子ちゃんは、施設の事を言っているようだった。
一度も、施設には、行った事がなかったから、どんな感じなのかは良くわからなかった。
「弓子ちゃんのところって、えっと、一緒に何人なの?」
直美が聞いていたけど、言葉を選んだのか、変な聞き方になっていた。
「14人かな・・小さい子は、出入り多いから」
出入りって言葉に俺は、ちょっとビックリしていた。直美も同じ顔だった。
「あのー ほら、小さい子は新しいおかーさんの家に、行っちゃうから・・わたしみたいに、大きくなると、そうでもないけど・・」
一瞬だまった俺たちに説明をしていた。
なんか聞いちゃいけなかったことのようでもあり、現実をきちんと直視している弓子ちゃんにはそうでもない事なのかとも思えたけど、やっぱり、少しショックな言葉だった。今まで、考えたこともないし、知ってもいない暮らしをしている中学生の女の子が間違いなく目の前にいた。
「ふーん」
俺はあいまいな、言葉を発するので精一杯だった。
「だから、いつでも、いやでも1人ってなったこと無いから・・さびしくないかなぁーって・・想像なんですけど。 1人がいいなぁーっては思うんだけど、憧れみたいなものもあるんだけど、なったらなったで、さびしいかなぁーって・・直美さんは1人の時ってさびしくないですか・・」
明るい声だったけど、考えながら話しているようだった。
「うーん、部屋に1人でいてもでもさ、一人ぼっちってわけではないよ・・・そこが大事なとこだね・・・恥ずかしいこというけど、今は、劉と同じマンションで部屋もすぐに行き来できるけどさ、でも、ここから劉が60km離れて住んでても、一人ぼっちじゃないもん、今のわたしは・・だから、そんなにさびしくないよ、ちょっと、たとえが変?」
自分で言ったのに、いい終わって、直美は頬を染めていた。こっちも恥ずかしかったから、黙っていた。
「たとえが 変ですって・・」
中学生もなんだか、頬を染めていた。
弓子ちゃんも直美も俺も3人がいっぺんに、グラスに口をつけていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生