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夏風吹いて秋風の晴れ

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テーブルはさんで


話を3人でしながらTVはつけていたけど、音は小さくしていたから、眺めるって感じだった。
「弓子ちゃんって、なにか運動部に入ってるの?」
直美が聞いていた。俺も、運動しそうな雰囲気に思えていたから聞こうかなって思っていたことだった。
弓子ちゃんは身長も160cm以上に見えたし、すらっとしていた。
「部活で、バスケットボールしてるんですけど・・直美さん、ポイントガードってわかります?」
「雰囲気でてるね、バスケットって感じ・・でも、ガードってわかんないや、守る人?」
「それは ディフェンスですね、簡単に言うと、攻撃の時に最初にボール持ってる人・・それで、わかりますか?」
「なんとなく、わかる」
あいまいそうな返事を直美がしていたから、俺は、少しだけ口を挟んで、
「司令塔みたいなものだね・・攻撃のゲームメイキングしたりするとこだな・・」
ずっと、中学から高校までバレー部で、いつも体育館の半分はバスケットボール部が練習をしていたから、なんとなく知らない間に覚えた知識だった。
「へぇー じゃぁー すごいんだ・・司令塔だもん」
直美が感心しているようだった。
「そんなこと無いですよ、あんまり強くないし・・」
「でも、もう、レギュラーなんでしょ?すごいねぇー」
「人数すくないし、背もちょっと大きいから・・」
照れながらも、少しうれしそうに弓子ちゃんは答えていた。
「直美さんも、運動できそうですけど・・」
「わたし?えっと、足は早いよ、うん、けっこうね・・陸上部とかには入ってないけどね・・」
「へー でも、早そうです、たしかに・・」
「劉も足は早いよー あんまり走ってるとこは見なかったけどね、バレー部だったから」
「バレー部だったんですかぁ・・そんな感じもします」
そんな感じかよぉーって思ったけど、たしかに、身長も普通だっから、仕方ないかと思っていた。
「強かったんですか?」
「えっ、俺の高校?えっとね、最高で、茨城県のベスト8だから、強いんだか、たいしたことないかは、微妙だろ」
弓子ちゃんに説明していた。
「強いじゃないですかー」
「いや、最後の大会なんかは、地区大会で負けちゃって、県大会にもでれなかったから、そうでもないなぁー」
3年生の夏前の最後の県西地区の大会では、準々決勝で負けていた。練習試合では負けた事のなっかた相手にだった。それで、部活を卒業していた。
「そうですかぁ・・」
弓子ちゃんがうなずいていた。
「ねぇ、転校しても弓子ちゃんは、バスケット部に入るの?」
直美が、帰りに買ってきた、ポッポコーンを口に放り込みながらだった。
「やりたいとは思うけど・・」
「やりなよぉー せっかくだもん、見たことないけど、きっと、活躍できそうだもん」
「はい、考えておきます」
返事をして、弓子ちゃんも遠慮がちにポップコーンを口にしていた。

弓子ちゃんの顔色は明るくて、夕方に会った時の悩みがありそうな顔ではなくなっていたけど、話をしなきゃって思っていると、先に直美が話を切り出していた。
「で、話っていうか・・弓子ちゃん、相談だね・・・遠慮しないで言ってね・・」
「あっ、はぃ・・・」
「言っちゃいな・・そうしないと、いつまでもすっきりしないでしょ」
「純ちゃんが・・」
弓子ちゃんの口から出た言葉は、やっぱり、それかって思えていた。直美もそのはずだった。
「純ちゃんが、かわいそうかな?・泣いちゃったりしてるの・・」
静かな声で直美が聞いていた。
「わたしの前では泣かないんだけど・・影で泣いてるみたいで・・ずーっと、あの子が小さい時から一緒だし・・わたしは、叔母さん好きだから、本当によく考えて、叔母さんの家に行こうって決めたんですけど・・もちろん純ちゃんの事もあったから・・ずーっと悩んで出した結論なんですけど・・・どうしたらいいか、わかんなくなっちゃって・・」
話を聞いて、俺と直美は顔を見合っていた。
簡単に何かを、口に出すのは難しかった。
静かな空気が流れていた。
「うーん、弓子ちゃんは、叔母さんの家にいったほうがいいよ」
自分で言いながらも、変な言い方だってわかっていた。
でも、叔母さんの家にいくのと、施設にいるのと、どっちに弓子ちゃんは居たいの?っては聞きたくなかった。
「俺は、あそこの家の叔母さんも叔父さんも好きだら言うけど、いい家だよ。きっと、何年か、何十年経った後かもしれないけど、あの家にいって良かったって弓子ちゃんは思うだろうって、俺は思うよ。だから、土曜日には引越して来な」
意見も聞かずにって自分でも思ったけど、俺の意見を聞いて、自分で最後は決める事だよって、言うのは、絶対に言いたくなかった。俺よりも、ずっと、何日も何日も1人で悩んでいた子には言っちゃいけないような気がしていた。
「弓子ちゃんが、施設をでて叔母の家にいくってことと、純ちゃんと別れて生活するって事は、一緒のことかもしれないけど、でも、同じ事でも別の事だよ。純ちゃんのことは、別に考える事だよ」
冷たい言い方で、理不尽な言い方なのもわかっていた。でも、言いたかったことだった。
少し間が開いて、今まで黙って聞いていた直美は、顔を俺に一度向けてから、弓子ちゃんに顔を向けると、
「あのね、わたしも、弓子ちゃんは、新しい生活を始めたほうがいいと思う。大変だと思うよ、きっとね。いろんなことが、これからあると思うんだ。でも、きっと、後悔はしないと思うよ。純ちゃんのことは一緒に、考えてあげる。でも、弓子ちゃんは、劉が言うように、土曜日には、きちんとお引越ししよう」
ゆっくりと、しっかりとした声で話しかけていた。
それを、顔をあげて、きりっと口元を締めた弓子ちゃんが聞いていた。
人生の試練とは言いたくなかったけれど、俺には降りかかった事もない人生の岐路にこの子は間違いなくいた。そう思ってみていた。手助けでもなく アドバイスでもなく、本当の気持ちを彼女にぶつけていかなけりゃ、失礼だった。話をうまく丸めようって考えなんて、起きていなかった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生