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家に憑くもの

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Ⅴ.リビングの家族(+1)



リビングに久々に家族4人が集まっていた。しかし、そこには家族団欒の雰囲気は無かった。全員が押し黙ったまま、その深刻な顔をお互いに見合わせるばかりだった。
リビングの中央に置いてあるL字型のソファーの長い縦棒の位置に裕子が座り、その正面のキッチンに近いダイニングテーブルの椅子には、ジャージ姿の佳織と、短パンを穿いて右膝に厚くサポーターを巻いた翔太が並んで座っていた。そして、L字型のソファーの短い横棒の位置には、数か月振りに帰って来た父の健次郎が座っていた。健次郎は長身でがっしりした体格の40代半ばの男だった。
健次郎は何度も足を組み換え、今の家族の雰囲気をどうにかしようと考えていた。健次郎が何か話そうとしたその前に、佳織がたまりかねたように口を開いた。
「本当なのよ。信じられないのは分かるけど、でも、本当なの。翔太だって見てるんだから。」
「ああ、見たよ。ねえちゃんが言ってる通りだ。」
健次郎が裕子に顔を向けた。
「おまえも見たのか?」
「わたしは見てはいないけど・・・翔太の部屋のドアに刺さったシャープペンシルは見たわ。」
裕子の返事は歯切れが悪い。
「二人の言うことを全部信用するわけじゃないけど、最近何か変な感じがするのは確かよ。はっきりとは言えないけど・・・」
裕子の言葉は、どこまでも歯切れが悪い。
「ふーん・・・」
健次郎は考え込むような仕草をすると、目の前の小さなリビングテーブルの楊枝立てから、爪楊枝を1本抜き取り、口に咥えた。健次郎の昔からの癖だった。裕子は、健次郎のその癖と喫煙を嫌い、何度も健次郎にやめるように言ったが、煙草はやめられてもこの癖は直らなかった。
「でも、信じられないなぁ、そっくりの人間が現れて襲いかかって来るなんて。どこかのホラー映画じゃあるまいし。」
さっきから何度も繰り返されてきた会話だった。
裕子は、健次郎の爪楊枝を咥えた口元を、できるだけ見ないようにしながら健次郎に言った。
「また堂々巡りね。きりがないわ。あなた、爪楊枝咥えるのやめなさいよ。」
「いいじゃないか、ただの楊枝だろ。煙草をやめたから、口寂しいんだよ。」
裕子には、この返事が返ってくるのは分かっていた。これも、夫婦の間で何度も繰り返された会話だった。
「なんで爪楊枝くらいでそんなに煩くいうのか、わからないよ。」
裕子には、健次郎が意地になっているのではないかと感じていた。この癖をやめないことが、男として、夫としての最後のプライドになっているのではないかと。そうだとしたら、つまらないプライドだ、と裕子は思っても、さすがに口にはしない。もう爪楊枝に関しては、半ば諦めていた。
作品名:家に憑くもの 作家名:sirius2014