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仮面

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Destructive emotion



 他人のシアワセってやつに関与なんてしなけりゃいいくせに、俺はそれらにいちいち腹を立てている。
 醜い嫉妬。あるいは劣等感。
 ついうっかりなんて馬鹿馬鹿しい言い訳まで用意して、俺はあえて他人の領域に足を伸ばす。
 イラつくだけなら遠くから冷ややかに眺めてるのが賢いやり方なんてことくらい分かっちゃいるけど。
 それができないのは理由はたったひとつ。俺が他人を見下しているからに他ならない。俺が認めている人間以外は、俺より不幸だと思い込んで優越感に浸る。どこまでも底意地が悪く、卑劣な人間。それが俺だ。
 だから、突如として与えられた衝撃は、嘲っていた俺への制裁。そんなはずないなんて虚しい言葉は吐き出されて存在を示さないまま消えていく。
 だからきっと俺は関与して、それらをぶっ壊したいと画策する。不可能だったとしても、想像の中だけでそいつを貶め、ぐちゃぐちゃに荒らす。所詮仮初めだと突き付けてやるために。

 そんな人間だっているんだと、きっとシアワセなやつらは思わないだろう。心から他人のシアワセを祝える人間の思考回路なんて俺は知りやしない。少なくとも俺自身を構成している思考と感情にはない。だからと言って知りたいとは露ほどにも思わない。

 くだらない。
 永遠なんてありはしないものを信じて、シアワセなんだとよく言えたものだ。確証のないものを信じて、その先に裏切りが待っていたとしても笑えるのか。
 あるいは裏切られるはずがないと、愚かにも信じ切っているのか。
 だとするなら、愚かだと俺は嘲笑してやる。裏切らない人間なんていない。人間は誰でもすぐに裏切るイキモノだ。裏切り、切り捨てる。
 そうじゃない人間なんて、俺は会ったこともない。

 俺が他人に関与するのは、そんな不確かなシアワセがズタボロに切り裂かれて無惨に死ぬ姿を見たいからだ。
 残虐的だと反抗するなら、どんな状態でも他人のシアワセを祝福できるか考えりゃいい。焦りも不安も憤りも嫉妬も何も感じたことがないなんて、そんなのは嘘に決まってる。
 表面上嗤ってオメデトウと言えるくらいの理性は誰しも持っている。そんなもの、当てにもなりゃしない。
 身勝手な嫉妬で相手を攻撃したいと願う俺は最低だろう。そのくらいの常識はさすがの俺でも分かっている。

 それでも俺は憎むだろう。
 俺が認めたやつら以外のシアワセを。

作品名:仮面 作家名:深月