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仮面

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仮面



 死にたいなんて本気で思ってるわけじゃないけどさ、時々口に出したくなるんだ。
 いや、言ってるときは本気。ただ実行に移す勇気がないだけ。
(臆病)
 だけど、それは勇気なのかな。辛いけど生きるって選択をするほうがよっぽど勇気に値するんじゃないのか。
 じゃあ俺は臆病なんかじゃない。
 ……なんて虚勢を張ってみたところで意味はない。単純に、俺自身に価値がないことへの言い訳にはならない。
(俺は馬鹿だ)
 そんなことは百も承知だ。俺が馬鹿じゃないんだとしたら、世の中全員が天才だ。卑下してるわけじゃなく、だからといってこんな自虐的な謙虚さを出しているわけでもなく、俺が俺自身に下している正当な評価。
 俺は俺自身が無能だってことを嫌ってくらい自覚してる。手に負えない役立たず。だれかがそんな俺に「そんなことない」だの「過小評価」だのと言ったところで俺は信じない。だったらそんな証拠を出してみろと後ろ向きな自信だけはある。なぜか。
(虚しい。カラッポだ)
 俺自身が。なにも残らない。生きたい道を選び取らなかったから。繋ぎたかったはずの未来を遠ざけて、俺の心はずっと燻っている。間違ってると叫びたがった俺の喉は寸前で潰れて、嗚咽すら出ない。正しかったんだなんて無理矢理にでも思い込ませて、引き裂かれそうな精神(ココロ)だけをギリギリで繋ぎ止めて。
 そんな風に生きてることに意味なんて見出せるわけもなくて、俺は思考だけどっかに飛ばして生きようとする本能に任せてただ無意味に生きてる。

 だれも知らない。だれにも知らせない。
 生きる意味も価値も見失った俺が、藁にもすがる思いで喰らいついている、切れてしまいそうなほど細い光。力付く出つかんだら沈んでしまうような。
 カラッポな俺が生きていられる縁(よすが)。喪ったら壊れる。
(知らない。自分以外のすべてが恵まれて見える世界なんか)
 矛盾した俺の思考。バラバラなカラダとココロ。どうだっていい、本当は。どう足掻いたって俺は俺以外にはなれなくて、無能で馬鹿な俺でしかなくて、そんなん分かり切ってるほど分かってるから。ただ壊れないように必死になってるだけだ。
(壊れてしまえば)
 楽なのに。何度そう思ったって、かすかに残った俺のマトモな理性がそれを赦しちゃくれない。中途半端に現実主義者(リアリスト)で、それが余計俺を苦しめる。なんのために必死になってんだか、それすらもう分からないってのに。


 ───壊れるのは、カラダなのかココロなのか。
    分かるくらいなら俺はいまごろ人生を謳歌してる。

作品名:仮面 作家名:深月