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音楽レビュー

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People In The Box『Ave Materia』


 People In The Boxの世界は幻想の世界である。ここでいう幻想とは、それまでの世界と整合しない世界の出現を意味する。歌詞の内容が、どこにでもいそうな人とものたちの不思議な組み合わせである、と同時に、メロディーもまた、どこにでもありそうなメロディーから、いきなりそれと整合しないものとして、別のメロディーが接続されていく。幻想は、あくまでもそれまでの世界とは整合しないが、幻想それ自体としてはそれなりの文法を保っている。問題は、それまでの世界と新しい世界との接続面での断裂であり、その断裂を巧妙に生み出すことで、彼らの音楽は巧みに幻想の世界を、視覚的にも聴覚的にも生み出している。
 ところで、それまでの世界と整合しない幻想は、どこか闇の属性を担っている。本来なら隠匿されるはずのもの、忌避されるはずのもの、忘却されるはずのものが、幻想として姿を現す。彼らの音楽において出現する闇は、決して禍々しいものでも恥ずべきものでもない。それは、少しだけ奇妙なものたちだ。なんか変だから気にしないでおこう、そうやって、記憶にプールされないで葬り去られるはずのものたちが、ひょこひょこ姿を現し始めるのだ。ここで大事なのは、彼らの楽曲にリフレインが多いことだろう。このリフレインは、単なる構造や機能ではなく、ある種のフラッシュバック、外傷の追体験のような様相を呈している。といってもひどい外傷ではない。何となく変で、何となく傷ついた、そういう奇妙なものたちが、白日の下に次から次へとさらされるのである。
 だが、その少しだけ奇妙なものたちは、決して積極的であったり光を放ったり永続するものであったりするわけでもない。彼らの歌詞から見て取れる彼らの世界把握は、とても冷静で、虚無感に満ちていて、すべての物事がそこでは相対化されている。音楽の作りもまた、クライマックスを排し、何かをことさらに強調しようとする態度に欠けている。すべての物事は瞬時にひらめくだけであり、後は流れ去り、相対化される。
 だから、彼らは、既存の世界と整合しない、少し奇妙な幻想を、世界の闇の中から拾い上げてくるが、だからといって、その奇妙な幻想にことさら意味づけをせず、むしろその幻想を内側から空虚化し、またすべてを流し去っていく。彼らにとって、音楽とは意味のないものであり、それでも、絶えず異界として現れて来るのを妨げることのできない、極めて無償な幻想なのである。

作品名:音楽レビュー 作家名:Beamte