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音楽レビュー

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22『FLUX』


 音楽には通常の意味での指示機能がない。例えば、言葉だったら、それが何を指示しているかは一見明白である。だから、言葉においては媒体がそれほど重視されない。言葉という媒体は、意味や内容を触発するという機能だけ果たし、人間の関心はもっぱら言葉によって指示された意味・内容へと向かい、言葉という媒体自体にはあまり関心が向かない。例えば、文字や音声は、それがどのような形をしてどのような音をするかということに関心が向けられることが少ない。
 それに対して音楽は、言葉のようにすぐさま意味や内容を指示するものではない。だから、音楽においては、音という媒体自体に人の関心は向かっていくのである。もちろん、音楽にも意味はある。だがそれは指示機能というよりは文脈機能である。明確に定まった意味を指示するのではなく、そのジャンルにおける位置づけとか、ミュージシャンの態度とか、そういうものを不明確に意味していくのである。
 だが、音楽には明確な意味がないからと言って、人間にそれを受容する型がないというわけでもない。むしろ人間は、音楽を認識するスキーマをたくさん持っている。これはロック、これはジャズ、これはクラシック、さらに細分化できるだろう。この、人間の抱いている様々な音楽の型、これを音楽の意味と言い換えてもいいかも知れない。それは、外界の何事かを指示するわけではないが、人間によって分節化された型のネットワークとして、人間の受容のレベルに生じる意味である。
 さて、このアルバムは、まず、音楽が媒体そのものとして人間に働きかけることを最大限利用しようとしている。それは、既存のロックの型から様々にずれていくことで、聴くものがそれを型に入れることから逃れようとしていくことによって、一層顕著になる。言葉は何かを意味することによって、意味を主役に仕立ててしまい、媒体として目立たなくなってしまうのだった。同じように、音楽も既存の型にはまることによって、その型が主役になって、媒体として目立たなくなってしまう。媒体として目立つためには、音楽の型を破る必要があるのである。そして、音楽の歴史とは、つまるところ、それが媒体として常に目立ち続けるために、既存の型を破り続けた歴史ではなかろうか。ポストロックはロックに新しい型を持ち込んだ。それが固定した型となる以前に、我々はそれに興奮し続けることができる。

作品名:音楽レビュー 作家名:Beamte