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NIGHT PHANTASM

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11.賽は投げられた(3/5)



皆殺しにしていい、とマスターは言った。
「……」
早足で白い世界を歩きながら、アンナは警戒を緩めない。今まで見つけた人間は一人残らず、殺した。
銃を持っている人間もいたが、距離が近かったために撃ち合いになるまでもなかった。滑り込むようにするりと距離を詰め、ナイフを突き立てれば終わる。
吸血鬼の姿は見えない。ホールは、今頃惨状になっていることだろう。向かうかどうか迷ったが、他の部屋を確認してからでも遅くないと判断した。

具体的な指示を、マスターは出さなかった。
「……」
さて、どうしたものだろうとルイーゼは思う。
清潔さに満ちた白い世界。壁も、床も、扉も、何もかもが白い。そしてその白は、とても冷たい。
今まで歩いてきた道のりを振り返ると、赤いものが点々としていた。刀から、重力に導かれつたい落ちた血が落ちたのだろう。
頬についた返り血を、ぬぐう。帰りはこの血のあとを辿って帰るのかと考えると、不思議な気分になった。
まるで、ヘンゼルとグレーテルのようだ。
しかし、困った。それにしてはヘンゼルがいない。グレーテルでもいい。とにかく、いない。一人では演じられない。
お菓子を取り上げられたような顔をしたルイーゼは、しばらくその場にとどまった。

ひたすら部屋を片っ端から掃討していくだけの仕事は、退屈以外のなんでもなかった。本部を襲撃するというのだから、もっと騒ぎになるものと思ったのにこれだ。
元々レンフィールドが単独で行おうとしていた作戦を、安全性や確実性を高めるという意味で手伝っただけなのだから当たり前といえば当たり前なのだが、物足りないと二人は思う。
生と死の境界が、ここにはない。
つまらない。

――生と死の境界に近く、色濃い場所が一つだけあった。
ホールである。
もはや大体の者は同士討ちに倒れていたが、残ったわずかな者は冷静さを失わず真実を推理で掴み取る。
「なるほど……レンフィールド様の、やりそうなことだ」
低く唸るように言う。その時エルザは、四人の吸血鬼とたった一人で対峙していた。小さな体を生かし、隙間という隙間に滑り込みナイフを振るうが致命傷には届かない。
すぐに治癒するさまを見て、劣勢を感じさせる表情こそ浮かべなかったが、もはやエルザは全身を傷と血で飾り立てられていた。
吸血鬼達も、レンフィールドに恨みがあるからこそ、その右腕であるエルザをすぐに殺そうとしないのだろう。
「エルザ、教えろ……レンフィールド様はどこだ」
「エルザ、開けろ……私達を外に出せ」
聞くだけ無駄な、ぶざまな豚の鳴き声。そう思った矢先に、彼女の体はいとも簡単に宙に浮き吹き飛んだ。腹部を蹴られ、内臓が傷ついていく。
血を吐き出すと、続く嘔吐感に涙が出た。吸血鬼と人間との絶対的な能力差を、いやでも思い知らされる。
「話さないか、それもいい」
囲んでいるうちの一人が、言った。くるりと背を向け、入り口へと向かう。力任せにやれば、吸血鬼にとって開かない扉ではない。
だが、パニックに陥り入り口へと殺到するような状況では、たとえ人外であっても開けられない。所詮はその程度の強度でしかなかった。
「……」
倒れたまま、エルザはかすむ視界の先に吸血鬼を見る。
あの扉は、あと一分もしないうちに開くだろう。その前に、一人でも多くの吸血鬼を排除しなければいけない。葬らなければいけない。
何故、そこまでするかと誰かが問うかもしれない。だが答えは一つ、マスターがそう命じたからだ。そうしろと、言ったから、そうする。できるできないの問題ではない。
それが、ビッテンフェルトの黒百合。咲き誇るこの時を、逃しはしない。
エルザは、ゆっくりと、それでいてしっかりと立ち上がった。ナイフを捨て、素手の状態で構える。
見て、吸血鬼の一人が肩をすくめた。
「やれやれ、少女を相手にするのは気がひけるんだがな……」
「あら、私はそれがいいと思うけれど。興奮するでしょう? 少女が、いたぶられて、苦しんで、精神的に陵辱されるさまは」
「お前は少女愛好という特殊な性癖を持ってるんだ、黙っていろ」
「ふふ」
――殺してやる。
一人残らず、殺してやる。レンフィールド様の想いに応えるために。ずっと一緒にいるために。どんなに劣勢でも、退きはしない。
エルザは音もなく、駆けた。


作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴