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NIGHT PHANTASM

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05.追う者、追われる者(後編)(1/3)



ブルーノ、フリッツの連絡が途絶えて数十分が経過していた。
張っていた網達に情報と説明を求めたが、異常はなかったと全員が口を揃えて言う。
祈りの家の番犬が、襲撃に来るのであれば今日をのぞいて他にないと言ったのは、鼻がきくことで名の知れたブルーノだ。
その言葉も、理にかなった説明がなされており、最初はそんなわけがないとふざけていたハンター達も、ブルーノの話が終わる頃には真剣に黙り込んでいた。

先ほど聞こえた異質な音は、やはり銃声だったのだろうか。
だとすれば、二人は――。
「貧乏揺すりをやめて、耳障りだわ」
「……すまん、カミラ」
今、拠点である建物内に待機しているハンターは五人。外に張っている網を呼び戻しても、十一人だ。
昼間だ、吸血鬼は活動できないとすれば、番犬は二人か、三人。情報に間違いがなければ、単独ということはないと判断していい。
だが、人数がわかったところでどうする?
月が満ち終わり、姿を消す夜に襲撃を予定していたのは確かだ。どちらにしても、番犬とはやりあうことになっていた。
だが、秘密裏に動いている『吸血鬼ハンター』の存在を、そしてそれを統率する組織の存在を表舞台に出すわけにはいかない。
つまり、白昼堂々街も近いこの場所で撃ち合うわけにはいかないのだ。

いつの夜だったか、死んだ同士は番犬を『Phantasm』と称した。
幽霊の訳語が与えられるが、それは必ずしも『死者の霊』であるとは限らない。
死者に似た人間が現れたり、景色に人間の姿が見えたり、現れるはずのないものが眼前に現れるといった――そのような、いないはずの連中が目の前に現れる『現象』を、『Phantom』、あるいは『Phantasm』と称する。
五人の中で唯一の女性であるカミラは、過去に『ファントム』と名付けられた戦闘機があったことを思い出した。
何が『Phantasm』だ。亡霊と称されても、開けてみればそれは自分達と同じように生きている人間じゃないか。吸血鬼という化け物に比べれば、何とスケールの小さいことか。
しかし、二人の連絡が途絶え行方が知れなくなってしまったことは事実である。それを捨て置くわけにはいかない。
「カミラ」
「……何?」
壁際に寄りかかって腕を組んでいた、白髪の男が彼女の名を呼んだ。
細身で背が高く、老齢ということを感じさせない威圧感のある男だった。口数は少なかったが、下劣な冗談を口にしない分カミラは彼に好感を持っている。
「ここを、動いたほうがいいんじゃないか。篭城には向いていない」
「それは、番犬がここに来るということ?」
「もし、このデュッセルドルフに番犬が放たれているのなら……目指す場所は、一つだ」
「まさか。祈りの家と通じている裏切り者がいない限り、この場所が割れるはずない……」
裏切り者。
カミラも特に考えなしに発した言葉だったが、言葉にしてみて分かるその重さにぞっとする。通じている者がいないという証拠は、どこにもないのである。
まさか、網となって沈黙している者達か、それとも、この中にいるのか。それは何人なのか。
祈りの家に棲む吸血鬼は単身だという。それならば、保身のために番犬を増やしていても不思議ではない。金でも、土地でも、権利でも、何でもいい。
懐柔されることは、接触さえ許せばたやすい。
その上、吸血鬼には不思議な暗示能力があるという噂だ。言葉にならない魅力を生まれながらに持ち合わせ、それにより人間を精神的な盲目状態にする。
そうだ。
操られて、マリオネットのように踊っている者がいるかもしれない。都合のいい事を言って、それは全て嘘かもしれない。
「ここを離れて、どこに行くつもりなの?」
「何?」
敵意の明らかなカミラの声に、白髪の男は睨みとともに返答した。
「人気のない場所にいったとして、それは罠かもしれない。あの吸血鬼が殺し屋を懐柔して待ち受けているかもしれないのよ」
「落ち着け、気持ちはわかるが今はそんなことを……」
「あなたね!? あなたが、吸血鬼と通じているんでしょう! おかしいと思ったのよ。ここを離れようだなんて、番犬がどんな人間なのか何一つわからないのに」
「そうだ、カミラの言うことに一理ある。街に出たとて、表立って動けないのは向こうに知れているはず。襲われて何もできないのは、ごめんだ」
タトゥーの刻まれた腕が印象的な、高い声の男がカミラに賛同した。
堰をきったように、声が入り混じり雑音の海と化す。信頼もない、顔を合わせて数日の烏合の衆は完全に浮き足立っていた。
死神の足音が、すぐそばまで近づいていることも知らずに。
「……?」
声とは違う異質な音に、カミラが席を立った。
念のために拳銃を構え、入り口へと近づく。誰かが、扉の向こうに立っている。気配を殺している様子はないが、だからといって安全とは限らない。
「……」
じっと、反応を待つ。
誰かがいきなり、五人の心へノックする。運命が変わる、合図である。
コン、と扉の調子を確かめるような軽い音がした。だが、それはノックにカウントされないほどの弱いものだった。
続けて、響きのいい音が二回、四回、二回とリズムを刻んだ。
「フリッツだわ!」
「間違いないんだろうな」
「ご丁寧に真ん中に四を挟むのは、うちの群れでもフリッツただ一人だぞ。おい、開けろ。時間がない!」
言わなくてもわかっているとばかりに、一番入り口に近い位置にいたカミラが、慌しく開錠する。扉の向こうは、パンドラの世界が広がっている。


作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴