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NIGHT PHANTASM

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04.追う者、追われる者(前編)(4/5)



「しゃあねえな……」
ぼやきながら、フリッツは橋を渡りその向こうへ歩き出した。
あまり、近づきたくない場所だ。デュッセルドルフにある唯一のナハティガル下部拠点があるのは確かだが、場所が悪すぎる。
年老いたり、病気で使い物にならなくなった娼婦を捨てることで有名な通りじゃないか、ここは。
「う……」
髪の短い番犬が入っていった路地裏を見るなり、思わず声が漏れた。
表通りとは一変して、光もろくに差し込まぬ狭い道。夜になれば、それはそれは暗く不気味な雰囲気を帯びることだろう。
新聞やニュースで、よくマスコミメディアが取り上げていた。ドラッグの売買、強姦、通り魔などの事件や問題がこの一帯は絶えないのだと。
急増した、と報じていたのは数年前だっただろうか。それ以前は、行き場のないホームレスの終着駅となっていた。
どれだけ表が裕福で平和ないい街に見えても、上下というものは人間が集団でいる限り必ず発生する。ドイツもまた、例外ではなかった。
その日暮らしで、明日を生きれるかどうかも危うい孤独な人間。自業自得で放り込まれた者もいれば、罪もないのに運が悪いというただそれだけで押し込まれた者もいる。
その時、足元で何かが動いた。
「なんだ、犬か。おい、驚かせるなよ」
薄汚れて首輪もない、おそらくは野良犬。空腹らしく、きゅうきゅうと寂しげに鳴いてフリッツに食べるものをねだった。
足にすりついてくるところを見るに、このような暮らしに慣れているのだろう。毛並みを整え、いいものを食べさせてやればさぞ立派な犬に見えただろうに。
動物好きなフリッツは、そんな犬の乞いに折れて何か食べられるものはないかと服のポケットを探った。
「すまん、何もねえ。お金やっても、お前にゃわかんねえだろうなあ」
お詫びといってはなんだが、頭をわしゃわしゃとなでてやる。くうんと鳴いて、察した犬はフリッツのもとを去っていった。
見送ったその後に、携帯電話のバイブレーションに気付く。電話の向こうにいたのは、ブルーノだった。
「フリッツ、今どこにいる!?」
「どこって、捨て橋の向こうの通りだよ。今、路地裏に入ろうと思ってたところだ」
「逃げろ」
「は?」
「逃げろ、相手はお前に気付いてる! ライフルを使えないのが幸いだが、ナイフを持ってる……今、まいたところだ」
ブルーノの尋常ではない焦り声に、フリッツの心臓が鼓動を早めた。実感があろうとなかろうと、死の匂いが確実に濃くなり近づいてきている。
「外見は」
「髪の長い方だ、その」
「ブルーノ? おい、ブルーノ?」
鼓膜を割るような音とともに、通話が途切れた。大きすぎて音の判断がつきかねたが、直前に聞こえたあれは――銃声?
一呼吸置いて、冷静になったフリッツは気付く。今の銃声は、電話の向こうからだけではない。フリッツの耳にも直接、聞こえていた。
撃たれたのか……いや、それならばブルーノは倒れて、携帯電話が地面に落ちるはず。落ちるだけで、あれほどの轟音がするわけがない。
「……」
顔面を蒼白にしながら、フリッツは最悪の可能性を導き出した。
ブルーノの状況を察するに、周囲を十分に警戒していたはず。しかし、その包囲網をくぐりぬけた先の死角から、ブルーノではなく連絡手段である携帯電話を狙撃したとでもいうのか?
相手はライフルを持っているとブルーノはふんでいたが、確証はない。それに、これほど複雑に入り組んだ路地でそんなものが――。
その瞬間、二度目の銃声が、すぐそばで響いた。
フリッツの思考が固まる。情報が錯綜しすぎて、処理落ちを起こしていた。彼のすぐ背後にあった建物の窓が、割れている。
騒ぐ声が聞こえないところからするに、幸いにも留守だったのだろう。耳鳴りが、彼の思考をさえぎりこれでもかと邪魔をした。銃声の残響が、脳から離れない。
――相手はお前に気付いてる。
ブルーノの言葉が蘇る。今の一発は、次はお前だというサインなのか。これは、合図なのか?
この場にいてはいけない。そう思い来た通りへ出ようとした時、探し人は姿を現した。

黒い帽子、オリーブグレーの長い髪、黒のワンピース、そう高くもない身長に、あどけなさを残した顔立ち。
「……は……っ」
息まじりに声を吐き、ひきずるように後退するフリッツの視界に立っていたのは、先ほどまで『どう見ても無害だ』となめてかかっていた、番犬の片割れだった。
ライフルではなく、リボルバーを構えてじっとこちらを睨んでいる。次は当てるぞ、どこがいいと言わんばかりの挑戦的な瞳。
逃げなければ、殺される。
ブルーノはこいつに殺された。狩りの道具を今は持っていない上、いや――完全に丸腰というわけではない。拳銃は一応、持っている。
いつもフリッツの危機を救ってくれた頼れる相棒だ。こちらにも勝機はある。
だが、それも『両方が構えている』という平等な状態での話だ。これから取り出して構え、狙うなどとばかげた真似はできない。時間が止まらない限りは。
「ちくしょう!!」
他の仲間も潜んではいるが、連絡を取る余裕すらない。フリッツは背後に逃げるほかなく、前のめりに走り出した。
幸運にも、すぐに曲がり角があった。飛び込むように逃げると同時に、三発目の銃声が響く。だが、どこも痛まない――相手はしくじったのだ。
このまま、広場に戻って、いや、戻れなくてもどこかの建物にたてこもり連絡を取れば勝てる。ここは拠点にも近い、仲間ならいくらでも待機している。
改めて思えば、もともとはこちらが罠にはめたのだ――フリッツは、にやりと口角を上げた。


作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴