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NIGHT PHANTASM

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03.マーダー・ライセンス(1/3)



二人が殺しの術を教わったのは、もう数年――いや、十数年かもしれない。忘れはしないが色あせる程度の、昔のことだ。
アンナはその時用いたナイフを今も大事に使い続けている。はじめて持ったその日は、自らが幼かったこともあるがあまりの重さに軽いめまいを覚えた。
片手で握るなど問題外で、小さな両の手でどれだけ持ち続けられるか、という練習からはじまったが、それはあくまで得物に慣れるための訓練である。
他にも、腹筋、屈伸、腕立て伏せ等をおりまぜた基礎体力の訓練、毎日のマラソンを強制された。
整備されていない野生の色濃い山道は容赦なくアンナ達の体力を奪い、優しい顔を見せることもない。だが、途中で倒れても誰も助けてはくれない。
誰も迎えにきてはくれない。意識ももうろうに、二人は欠かさず決まったルートを完走した。

吸血鬼であるティエは、戦うことはできても『戦い方』というものを知らない。
人間と吸血鬼との圧倒的な実力差に任せ、障害全てをねじ伏せてきた。ナイフと投擲の腕は相当だが、それだけである。
習ったわけでもなく自然に身についたものであるため、二人の教師をつとめることは叶わなかった。あれをしろ、これをしろと指示したのはジルベールである。
大方、ティエが双子に自己防衛の術を教えたいがどうしたらいいかと相談をもちかけたのだろう。
それがいつしか殺しの術を教えることになろうとは、二人がそれを望むとは、夢にも見なかったに違いない。

銃などを選択された日にはどうなることかと思ったが、それはただの杞憂に終わり、二人はティエにナイフを扱うための教えを乞うた。
主人の得物がナイフだということを、おそらくは知っていたのだろう。当時は目を離すこともできないほどに幼かった二人だというに、賢いものである。
子どもの成長は早い。
大きなナイフの重みに慣れさせることも忘れないと同時に、実際に訓練する際にはわりと小型のものに布を巻いて使用した。大きさでいえば
投擲用のものを持たせてもよかったのだが、あれはあくまで投擲用の域を出ず、握り方や扱い方に変な癖が生まれてしまう。
理屈ではなく感覚で動くようにするには、邪魔な要素だった。投擲は投擲、近距離は近距離で教えた方がいい。ティエはそう判断した。

「切りつける時は、牽制の時、距離を測る……もしくは取る時。そして、相手の防御を崩す時。むやみやたらに振り回すのは素人よ」
ほどほどに五感と動きをセーブしながら、ティエは二人を同時に指導した。相手は子どもだ、もし刺されたとてそう重傷にはならない。
それよりも、心配すべきなのは二人のミスだ。自分のナイフで自分を傷つけられては、こちらも対処に追われる上死んでしまわれては意味がない。
「殺すつもりでいくなら、刺突を狙いなさい。難しいけれど、じきに慣れるわ。狙うのは時と場合によるけれど、心臓、腎臓、首に……」
言うことはきっちり言うが、正直なところティエは心臓を狙うのがあまり得意ではなかった。
標的は常に動いていると言っていい。銃で狙撃でもするのであれば話は別だが、近距離で衝突して相手が動かないわけがない。
となると、狙いを定めてから当てるまでのズレを計算しなければ、それに流されて見当違いの場所を刺してしまう。あばらの骨にはじかれるのがいい例だ。
刺突は切り払いに比べて隙が格段に大きいため、当てられなければ反撃されるとみていい。
一発で全てを決めないのなら、眼球を狙う手もあるが的としては少々小さい。むしろ、投擲の分野になってくる。

最初の数年はぎこちなかった二人だが、少しずつ土台はかたまっていき、才能だけに頼らない確かな実力を築くことができた。
多くを語らず、主人に絶対の忠誠と服従を誓い、ただ毎日自分を守る術、そして人を殺す術を学ぶだけの毎日。

自衛の手段と、攻めを変則的なものにするために同時進行で体術をティエは教えた。二人は人間、力の入れ方などは委ねる他に手立てがない。
実際に手合わせをする時は、一人ずつではなく必ず一緒にし、双子として、そしてパートナーとしての呼吸を合わせることを目指した。
不思議なもので、双子は左右から鏡うつしのように攻めてくることがほとんどだった。ワンパターンだったそれは、だんだんと複雑なものになっていく。
今考えてみれば、当たり前のことだった。
二人は、一人だったのだから。


作品名:NIGHT PHANTASM 作家名:桜沢 小鈴