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キジン×ヘンジン×サツジン

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問3 フーダニット・ハウダニット・ワイダニット


「起きてください! 十一月二十九日さん!」
 肩を大きくゆすられ、目を開ける。
「どうしたんですか、四方八さん。こんなに朝早くから慌てて」
 あくびを噛み殺しながら僕が訊くと、
「薬師さんが部屋で殺されているんです!」
 驚きのあまり僕は声が出ない。
 まず、落ち着くべきだと感じ、時間を確認する。
 午前4:55。
 まだ空岸さんが担当の時間だが、5:00からは四方八さんの担当時間になる。
 おそらく、四方八さんが早めに起きたのだろう。
 見れば、仕使さんも起床している。
「仕使さんにここをお任せし、空岸さんと二人で一度見回りをすることにしたんです。早朝ですから、犯人が油断して寝ている可能性も高いですからね。そして見回ってみると、薬師さんの部屋の扉が、大きく開け放たれていたんです。おかしいな、と思ったので覗いてみると、頭に深々とナイフが突き立てられている、薬師さんの遺体があったんです!」
 逡巡し、
「僕にも現場を見せてもらっていいですか?」
 そう言い、現場へと向かった。

 現場に着くと、文字通り『頭にナイフを突き立てられた死体』があった。
 ナイフは根元まで突き刺されており、間違いなく頭蓋骨を貫通している。
 そして、体中を太いロープでぐるぐる巻きにし、ベッドに無理やり結び付けてある。
 足元に立ちその姿を見ると、ナイフのに施された細やかな意匠も関係してか、一種の妖しさ、美しさすら感じる。
 しかし僕は、
「これは……ありえない……」
 僕がつぶやくと、
「なにがありえないんですか?」
「頭蓋骨は、非常に硬いんです。それはもう、本当に。とてもじゃありませんが、人間の力だけでナイフを突き刺す、ましてや貫通させる、なんてことは不可能なんです。もちろん何かしらの道具を用いれば不可能ではないですが、そういった道具を用いるということは、強い力を扱う、という意味なんです」
「つまり……」
 四方八さんがつぶやく。
「ええ、四方八さんの思っているとおりです。強い力を使う際には、必ず大きな音が発生するはずなんです。ですが、昨夜から今朝にかけて、そんな大きな音はしていないんですよ」
 僕らは現場の状況をできる限り残すため、第一の殺人のときを同じく、カメラで写真を撮った。
 薬師さんの遺体からロープを外すと、体のあちこちに跡が残っている。
 特に色濃く残っていたのは、おなかの上を通る一本、指に絡まった数本、首の円周を走る一本、太ももに何回も巻きついていた一本だった。
 通間さんの遺体と同じく、薬師さんの遺体を管理人室に安置する。

 きちんと鍵をかけロビーへ戻ると、すでに全員が起きていた。
 そして、
「ねぇ、優里はどこ!?」
 優希さんが今にも襲い掛かろうとするような形相で、詰問してきた。
「優里さんですか? いない……? まさか! まずは部屋を見に行きましょう!」
 全員でそろって11号室に行く。
 扉は……開いていない。
「一応中にいないか確認しましょう。――優里さん、いらっしゃいますかー!」
 ドンドンと粗暴なノックを何度もする。
 しかし、返事が無い。
「――四方八さん、マスターキーを使って開けてください。優希さんもいいですね?」
 二人がコクリとうなずく。
 四方八さんが胸の内ポケットからマスターキーを取り出し、鍵を回す。
 錠の開く音がし、ノブに手をかける。
 一気に扉を開き、中を見る。
 そこには――
「きゃあああぁあああああああああ!」
 体のど真ん中をナイフで刺され、部屋に張り巡らせたロープに引っ掛け、吊るされた優里さんの死体が、あった。
 そして、優里さんの死体に突き刺さったナイフには、11と書かれたタグのついた鍵が、吊るしてあった。