笑撃・これでもか物語 in 歯医者
歯医者に来て、診療椅子に座りながらではあるが、ちょっとした診察待ちの時間に懐かしいタイタニックの映像が観られる。最高とまでは言い難いが、これから始まる治療への不安を忘れさせてくれる。
「こんな所で、タイタニックの映画が観られるなんて……、さすが日本、時代の最先端を突っ走ってるよなあ」
映像はすでにタイタニック号が半分に折れ、北大西洋の海に突き刺さっているシ−ンを映し出している。乗客たちがバラバラと海へと落ちて行く。
ジャックとローズは海に突き刺さった船尾の最先端にいる。今まさにタイタニック号は沈没寸前。
「おっおー、スッゴイなあ……、沈没か」
高見沢は思わず声を上げた。そして、タイタニックは兎も角として、日本の歯医者さんはやっぱり大したものだ、とただただ感心するしかなかった。
高見沢は幼い頃からあまり歯が丈夫でなかった。したがって、この歳になるまで、その時々で歯医者さんのお世話になってきた。
それは歯医者さんとの思い出と言うべきものなのか、それとも『これでもか』という体験だったのか、そういった類のものが一杯ある。高見沢は今タイタニックの映像を見入りながら、追想がどんどん深まって行く。
「ああ、やっぱり、これでもかの極めつけは、アメリカの歯医者さんと、メキシコの歯医者さんだったよなあ」
こんな呟きの後に、高見沢はまるで招待を受けたかのように、歯医者さんとの『これでもか』の体験、それらの思い出へと埋没して行くのだった。
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊