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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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地蔵盆ライブ



 
『……と、これは基本的な症状で、多少の個人差はあるからそれを念頭においてくれるかな。それから、発作はこれから頻繁に起こると思うし、痛みや呼吸困難も激しくなる可能性がある。薬ではどうにもならないと思ったら、早めに119番して、専門医に任せなさい。あっちの病院にも専門医がいるらしいので、その旨、連絡はいれておくから、何かあったら、堀越くんと同じ病院へ行けばいい』
 七月末、航の検査の付添いついでに相談した時の医師の言葉がこだまする。
『それにしても……。今度は藤森くんとはね……。君はそういう悩みのある子達とやたらと縁があるんだね。いや、からかってる訳でも、呆れてる訳でもないんだよ。藤森くんの担当医とも話してたんだけど、二人とも君といると安心するらしくて……。……不思議な子だね、って』
 京都へ向かう新幹線の中、ウトウトしながら、慎太郎は数日前の出来事を夢に見ていた。
  ――――――――――――
「……ダメだよ、航くん」
「大丈夫やって。爆睡してるんやから」
 新幹線のボックス席。腕組みをしたまま眠りこけている慎太郎の前で、航と奏がひそひそと……。
「……やめなよ! ……ぷっ!」
「止めつつ、笑てるやん、奏」
 悪戯中である。
「……だって……星……ぷぷっ!」
「“夢見る青少年”やからねぇ……」
  ――――――――――――
『高校は卒業出来ないだろうって。……そう言われているのよ』
 奏の家に練習に行った際に聞いた藤森両親の言葉。奏が席を外した時に、不意にその話になった。それを聞いて泣きそうになる航に、両親が微笑む。
『数%の確率すらない手術に踏み切る勇気は、私達にはないんだよ。それをあの子に勧める勇気もない』
 手術してもし失敗したら、もう奏とは会えなくなる。その確率が高い手術を受けろとは、誰も言う事は出来ないだろう。
『だから、人生の最後に会えたのが君達で、本当に良かったと思う』
『あの子、最近は毎日笑ってるのよ。あなた達には感謝してるわ』
 そう言う両親に、頭を下げるしか出来なかった。
  ――――――――――――
「……どーせなら、睫毛も……」
「航くんっ。長過ぎ……ぷぷぷっ……」
「はい。出来上がり!」
 “男前やん♪”“クスクス…”と小声で笑う二人。
  ――――――――――――
『“どう思う?”って……』
 ベランダ越し、木綿花が非常用のつい立の向こうから顔を覗かせる。
『決めたんでしょ。“一緒にいる”って。……え? 京都に行く事?』
 毎年恒例になった、“航の帰省に同行”の京都旅行に今年は奏も同行する事になった。
 奏自身、京都には以前演奏ツアーの途中でちょこっと寄っただけらしい。ちゃんとした観光や修学旅行なんかはしていないから「行きたい!」との奏の言葉に、藤森夫妻は病院側に相談した。期間は一週間。常備薬の携帯は勿論の事、万が一の搬送先の病院は、航の主治医のいる病院に連絡をとってもらって、許可がおりた。
『本人が「行きたい」って言うなら、その方がいいと思うわよ。ま、航くんはあの性格だから、あんたの苦労は目に見えてるけど』
 からかい半分に木綿花が笑った。
『……なんだか、あの頃の慎太郎みたいね……』
 瞬き始めた一番星を見上げて、木綿花が呟く。
『小学校五・六年の頃。……いつ、どこで何をしても、慎太郎が助けに来てくれてたじゃない?』
 父と離れて暮らすたった三人の家族。自分に出来る事を精一杯やっていこうと決めたのは、小学三年の時。家族で唯一の“男”なのだから、母と姉を守っていこうと心に誓った。とは言っても、母は仕事に出てしまえば、慎太郎では手が届かない。だから、手の届く範囲にいる木綿花を“嫌な事”から守っていたのだ。目一杯、何気なくやっていたつもりだったのだが、どうやらバレバレだったようで……。「そうだっけ?」ととぼけてみる。
『なんだか“お兄ちゃん”がいるみたいで、嬉しかったのよ……』
 木綿花が自分の言葉に頬を染め、慎太郎が頭を掻いた。
『なんかさ、そうやって“誰かを守ってる”風な方が慎太郎らしくて、好きだな』
  ――――――――――――
航が、手に持っているマジックをカバンの中に片付けた。と、同時に、
「……う……ん……」
 慎太郎が目を覚ます。
「悪ぃ。寝ちゃったな、俺……」
 謝るが、航の視線は窓の外だし、奏は俯いたまま肩を震わせている。寝ていたといっても、ものの三・四十分ほどだろうから、二人に怒られる覚えはない。……となると……。
「ケンカでもしたのか?」
 “航?”と航の肩を叩くが、こちらを向く事なく、
「ううん」
 との返事。その隣で口元を押さえて肩を振るわせ続けている奏。心配になって、
「苦しいのか!?」
 強引に顔を覗き込む。……と、
「ぶ―――っ!!」
 奏が涙目で吹き出した。
「ダ、ダメ……。限界……」
 お腹を押さえながら、航の肩を掴む奏。
「辛抱足りなさ過ぎやで!」
 と、振り返りついでに慎太郎と目が合い、
「だーっはっはっはっ!!」
 航が指差しつつ笑い出す。
「何なんだ、お前等!?」
「目ぇ開いてるのに、睫毛、出てる!」
「だから、“長過ぎ”って……」
「何の事だっ!?」
 イヤな予感がしつつ、慎太郎が二人に詰め寄る。それを待っていたかのように、新幹線がトンネルへと突入。
「僕は……止めたんだからね。……クスクス」
 “お腹、痛い”と笑いながら奏が言う。
「止めつつ、笑てたやん!」
 窓を指差し、航が奏の肩を叩く。
 首を傾げながら、指された窓を見る慎太郎。
 トンネルに入ると光と影が逆転し、窓ガラスが鏡の役割を果たすのだ。
「はぁーっ!?」
 慎太郎が奇声を上げた。
 見開いた目の上に数本の黒い筋。瞬きすると、その瞼に……“目”!!
 そう。慎太郎が寝ている間に、航がペンで瞼にキラキラの瞳を描いたのだった。
「なんだこれはっ!?!?」
 怒る慎太郎に、
「“夢見る青少年の星の瞳”?」
 奏が航に向かって問い掛ける。
「ふざけてんじゃねーぞっ!」
 今度は凄む慎太郎に、キャーッと笑いながら身をひるがえすフリをして、
「す、水性ペンやから、すぐ取れるって!」
 と、航が使用したペンを突きつけて見せる。が、
「……航くん。それ……油性……って書いてあるよ」
 奏の言葉に恐る恐るペンを確認した航の顔が引き攣る。
「エ、エヘヘ……」
「航―――っ!!」
 新幹線の中、慎太郎の声が響いた。

  
「お祖父さんも帆波も、ちゃんと謝んなはれ!」
 京都の実家で、航の母方の祖母が慎太郎の顔を拭きながら声を荒げている。
 新幹線のホームまで迎えに来てくれた航の祖父と姉。新幹線から降りてきた慎太郎のサングラスに首を傾げていた姉の帆波が、理由を知った途端に爆笑したのだ。たしなめつつ、祖父も笑いを堪えきれずに吹き出した。そして、そのまま帰宅。祖母にその話をすると、石鹸とタオルを持って、祖母の指導で早速洗顔となった。
「笑てんと、航を叱るのが当たり前と違うんどすか?」
 怒る祖母に祖父はタジタジである。
「帆波も。年頃の女子(おなご)が涙流しながら笑うやなんて、行儀の悪い!」
「ごめんなさい」