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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 しおらしく謝った帆波が、チラリと航と奏の方を向いて舌を出す。
「ホンマにもう! びっくりしたでしょう? いつもこんなんで、往生してますのえ」
 奏には優しい笑顔を向ける祖母に、
「祖母ちゃん、なんで奏は怒らへんの?」
 航が拗ねる。
「奏くんは“お客様”。それに、実行犯は航やないの。一緒に笑たかもしれへんけど、止めに入ったんやろ? ええ子やないの」
 慎太郎の顔を拭き終えてタオルをたたみ、祖母が立ち上がった。
「俺ばっかり!」
「そう思うんやったら、悪さばっかりしなはんな!」
 ビシッと航を叱りつけ、祖母はタオルと石鹸を持って居間から姿を消した。
「もう!」
 膨れっ面のまま、テーブルの上の饅頭をパクリ。
「慎太郎くん、コーヒー淹れよか?」
 テーブルにはお茶が用意されている。それなのに、あえて“コーヒー”。これは、帆波の謝罪なのだ。
「ありがとうございます」
 慎太郎がペコリと頭を下げた。遠慮してしまうと折角の謝罪を拒否してしまう気がして、ここは甘える事にしたのだ。
「美味しいの淹れるさかい。待っててな」
 滑るように車椅子がキッチンへと移動する。
「そや、航」
 祖父が思い出したように手招きし、航が顔を寄せた。
「頼まれてた“地蔵盆”の事やけどな……」
 【地蔵盆】
 京都の祭り事で、八月の二十三・二十四日に行われる行事である。京都には町内毎にお地蔵さまが祭ってあり、いつもは当番制でそのお地蔵さまのまわりを掃除してキレイにしているのだが、この日はお地蔵さまにお飾りを施して、さまざまな余興を行い、地域を守ってくれているお地蔵さまに感謝の意を表すものである。
 お地蔵さまの近くに茣蓙を敷き(場所によってはテントを張る)、常に大人が(大概、町内会役員)お供え物などを管理し、小さい子供達がそこで一日中遊んでいたりする。中学生以下の子供達全てに午前と午後の二回おやつが配布され、夜は大人達の宴会場となる。
 しかし、最近では子供の数が減り、あまり賑やかにはならないのが現状なのだ。
「アカンて?」
 饅頭をパクついていた航の手が止まった。
「アホぬかせ! “アカン”なんて言わすかいな!」
 ドンと胸を叩く祖父。
「流石、祖父ちゃん!」
 手を叩く航の前で祖父が踏ん反り返る。が、
「何言うてはりますの。“子供が少ないから、大歓迎や”って言うてくれはったの、町会長さんやおへんか」
 戻って来た祖母に一蹴される。
「近所の中学生達だけやと、まだ“聴かせる”とこまでは出来ひんさかいって、喜んではったえ」
 そう言って祖母が微笑むが、慎太郎と奏には何の事やら分からない。
「いや! 聞いてはらへんの?」
 二人が頷き、
「ちゃんと決まってから言おうと思ててん!」
 責められる前に航が身を乗り出した。
「あのな、“地蔵盆”って京都の祭りがあんねん」
 お菓子を食べるのを休んで、航が二人に説明を始める。
 祭りが二日間ある事。いつもは八月初旬に帰省するのに、今年はその為に今の時期にした事。そして……。
「でな、今年は人を集める為に幾つかの町内で合同で、ライブするんやて!」
「ライブ!?」
「うん! 小学校の講堂借りて、午後から。ジャンルは問わへんって言うてたから、ロックありのクラシックありの……」
「お宅によっては、習い事の秋の発表会への予行練習に、て思てはる人もいてるさかい。軽音楽だけやのうて、バイオリンやらピアノやら、色々あるみたいえ」
 “節操ないやろ?”と笑いながら、帆波が慎太郎へコーヒーを出した。
「……ピアノ……あるんだ……」
 思わず頬を紅潮させる奏。
「学校の講堂やさかいな。グランドピアノがあるんちゃうかな?」
 祖父の言葉に帆波が頷く。
「結構立派なグランドピアノやて聞いたわ。奏くん、ピアノ弾けんの?」
「はい」
「いや、楽しみやわぁ♪」
 喜ぶ帆波に、
「ビビるで、姉ちゃん」
 航がほくそ笑む。
「なんやの?」
「内緒! ……で、祖父ちゃん。俺等はいつ?」
 ライブは二日とも午後にあるのだ。
「一日目の……三番目……いや、四番目やったかな……」
「曖昧やなぁ」
「前日の二十二日に参加者対象の説明会があるさかい、それに出た時に確認したらええがな」
「頼んないなぁ……」
 再び饅頭に手を伸ばし始めた航が、部屋に掛けてあるカレンダーに目をやる。今日は十八日。説明会まで四日、本番まで五日ある。
「祖母ちゃん。これ、持って上がっていい?」
 自分達の分のお茶とお菓子を指して航が腰を上げた。
「かまへんけど、零さんときや」
「うん!」
 煎餅を一枚口にくわえたまま、荷物を肩に掛け、お菓子の器と自分のお茶を持って航が二人を手招き。二階に上がっていく航の後を追って、各々の飲み物片手に慎太郎と奏が居間から姿を消した。

  
 二階の航の部屋に到着した三人。早速、ライブの話になった。
「開始は午後一時。持ち時間は十分から三十分くらいまで」
 曲の種類やら演奏目的なんかがバラバラだから、みんなの意見を聞き入れていたらそうなったらしい。
「んじゃ、俺等は“三十分”コースだな」
「五・六曲だね」
 “秋桜の丘”とオリジナル曲を数曲。
「どうせやったら、今作ってるのも入れたいな……」
「……だよね……」
「は?」
 頷き合う航と奏に慎太郎が驚く。
 が、そんな慎太郎を無視して航がギターを奏がキーボードを準備し始めた。
「おいっ!」
 慎太郎が声を上げるが、
「なんだかんだ言うて、歌てくれるし」
「信頼してるんだよ、僕ら」
 と言われ、渋々準備を始める。
 三人揃って頭を突合せながらの曲作りが始まるのだった。

  
 あっという間に四日が過ぎた。今日は、午後から明日の説明会がある。
「こっち来てから、毎日賑やかどしたなぁ」
 昼食後のお茶を出しながら、祖母が笑っている。
「うるさかった?」
 初日、あのまま曲が完成。それの練習とその他の曲の練習とで、食べる事と朝の散歩以外は家の中でジャカジャカと鳴らしっ放しだったのだ。散歩は気晴らしなのだが、いかんせん、夏の京都は半端なく暑いから早朝か夜中しかのんびりと出歩けない。
「お祖父さんの音とおんなじやさかい、気にならへんよ」
 祖父の紋彫機同様、航達の楽器の音は祖母にとっては“仕事”の音であり、そこに彼らがいるという証なのだ。存在を確認できる音なのだから、決して騒音にはならない。
「奏くんは、あのキーボード、持っていくの?」
 帆波が出掛ける用意を終えて航の隣に車椅子を止めた。
「はい。そのつもりです」
「え?」
 頷いた奏に、航が身を乗り出す。
「ピアノ、借りたらええやん」
「でも、学校のだし……」
「どーせ、ピアノ弾く奴も居るんやから、借りれるって!」
 航の言う通りだ。ピアノの発表会の予行練習に来る人もいると聞いた。その人が使えて、奏は使えないというのは有り得ない事だ。
「その方が、荷物も減るしな」
 航の言葉に慎太郎が頷く。疲れを減らす事が出来るのなら、それに越した事はない。
「姉ちゃんも行くんか?」
 どう見ても、外出支度の姉を見て航がコップの氷ごと麦茶を口に含んだ。
「明日の説明会やで。来てどーすんの?」