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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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三 人



 初めての『三人ライブ』から三日。ゴールデンウイークに突入している四月末。
 今日は揃って、堀越宅である。
 朝、十時に駅で待ち合わせてそのまま航の家へと直行。慎太郎は一足先にギターを置きに寄ったので、手荷物のあるのは奏だけだ。三人で“ステージピアノ”を囲むようにして立っている。
「流石に、ピアノはないからなー……」
 駅からのバスの中で航が“ごめんな”と呟いた。
「重かったら言うてな。シンタロが持つさかい」
「俺!?」
 突拍子もない慎太郎の声に航と奏がクスクス笑う。
「土曜日やって、出来そうやったら、四日連続ライブ?」
 音楽の主導権は“航”だが、スケジュールの主導権は“慎太郎”なのだ。
「……のつもりだけど」
 慎太郎がチラリと奏を見る。
「何?」
「どうしたん?」
「こないだの土曜日。あの後、なんともなかったか?」
 三人での初めてのライブをやった土曜日。別れ際、奏の顔色が悪いように感じた慎太郎が奏の顔を覗き込む。
「うん」
 頷きつつも、慎太郎の視線が気になりチラリと航を見て微笑む。
「ほんとに、なんともなかったよ」
「なら、いいけど……」
 バス停に到着し、奏の手からヒョイと荷物を取り上げバスを降りる慎太郎。それを追って、航と奏がバスを降りた。
  

 堀越宅に着くや否や、航がノートを広げた。
「言ってたのって、これ?」
「うん」
 ちょこちょこと書きためた“詞”と“メロディー”。航からその存在を聞いていたものの、慎太郎では手も足も出なかったのだが、奏なら、なにかしら力になれる。その為に、今日は奏を呼んだのだ。楽器を余り必要としない打合せは堀越・飯島宅、演奏が必要になる音合わせ等の打ち合わせは防音完備の藤森宅でと、昨日、学校で決めた。
「……ここだけど……」
「うん?」
 セット済みのステージピアノを弾き始める奏。器用に片手で主旋律、反対の手でハモ旋律を弾く。何度か弾いて、
「音だけだと、これで充分なんだけど……」
「……“けど”?」
 キョトンとする航に頷きながら、
「はい、飯島くん」
 航のノートを慎太郎に手渡す。
「って?」
「今弾いてた旋律、そこのメロディーだから」
 “歌えるよね?”と笑顔で問い掛けてくる。先日の土曜日のライブの為の練習で、慎太郎の曲覚えの良さと航の才能は確認済みなのだ。
「お前、ムチャ振り……」
 慌てる慎太郎を尻目に、航と奏が各々の演奏を始める。
「……チッ……」
 舌打ちしつつも観念する慎太郎。聞く耳持たずの相方が二人に増えてしまったようだ。
「♪キミがいること……」
 慎太郎の声に、
「♪キミがいること……」
 航の声が重なり……、
「ここ!」
 奏のストップがかかった。
「飯島くんの歌い方だと、微妙にビブラートがかかるから……」
 そう言いながら、航のノートに書かれた楽譜の一部に修正を加える。
「こっちの方が……」
 素早く、書き直した旋律を弾きながら説明する。
「……“音”としてはきれいだと思うよ」
「んー……」
 譜面だけではなんとも言えずに航が頭を掻いた。
「飯島くん。さっきの所、繰り返して。で、堀越くん。最初、歌ってみて。次は僕が歌うから」
 そうすれば、比べられるでしょ? と奏が微笑む。
 音楽に関する知識の薄い慎太郎はというと、首を傾げつつも言葉に従うしかない。
「♪キミがいること キミといること……」
 慎太郎の低音に、
「♪キミがいること キミといること……」
 航の高音が重なる。
 そして、その後、
「♪キミがいること キミといること……」
 繰り返して歌う慎太郎の低音に、
「♪キミがいること キミといること……」
 奏の声が重なった。高低だけなら航とそう変わらない声。違っているのはその声質である。
 航の張り詰めた透明感のある声とは違い、柔らかな凛とした高い声だ。その声が、航の声同様、慎太郎の声に寄り添うように響く。
 聴いていた航と歌っていた慎太郎が思わず視線を合わせる。
「……こんな感じだけ……ど……」
 歌い終わってふと見た航の瞳のキラキラに、奏が言葉を躓かせた。
「……堀越くん?」
 首を傾げる奏の横で、航が慎太郎の肩をバシバシと連打している。
「痛ぇよ、航!」
 叩いているその手を掴もうとする慎太郎。それをかわし、
「奏っ!」
 航が奏の手を取った。
「な、何?」
「それ、採用!!」
 笑顔で奏の手を握り締めたままブンブンと振り回す。
「じゃ、半音下げた方で……」
「ちゃう!!」
 きょとんとする奏の手を離そうとせず、“分かってへんなー”と航が笑った。
「今の、ライブでやろうって事」
「半音下げた譜面(スコア)……でしょ?」
 奏の言葉に航が頷き、首を振る。
「それと込みで、奏が歌うの!」
「え?」
「絶対音感持ってて、音痴やとは言わせへんで!」
「僕は……」
 困った顔のまま、奏が航の向こうの慎太郎を見る。
「そーだな。航の声とも合いそうだし……」
 航の声に似た……でも、どこか違う奏の声。確信を胸に、慎太郎が奏に微笑む。
「歌はそんなに得意じゃ……」
「ひとりじゃないんだから、大丈夫だよ」
 殆どのメインは慎太郎が歌うのだ。万が一、間違えても、三人の声ならフォローできる。悩む奏が振向いた先には、笑顔で頷く航。
「……分かった。……歌う」
 奏が、色々な心配事や不安の残った笑顔で頷いた。
「ほな、もう一人分、ハモ、追加しな!」
 張り切る航が、スコアノートに向かい、慎太郎がそっと奏の背を押した。
   ――――――――――――
 航が歌う筈だったハモを奏が歌う事になり、急いで追加した新しいメロディーは、あっという間に出来上がった。
「ん♪ん♪ん♪……?」
「いや、こっちが、ん♪だから……。ん♪ん♪」
 曲の土台は航が作り、奏がそれをフォローする。航のベッドでゴロゴロしている慎太郎の脇で、あれよあれよと曲が出来ていく。
「お前らさ……」
 放っておくと、そのまま何曲も出来てしまいそうなその勢いに慎太郎が声をかけた。
「ライブ毎に一曲ずつ増やしてく……ってつもりじゃないだろうな?」
「え?」
 驚いて振向く奏とは対照的に、
「それが理想やねんけどなー……」
 と、譜面から目を反らす事無く航が返事をする。
「そんな事したら、シンタロ、ギターの方が追いつかへんやん?」
 核心をつかれた慎太郎が顔をしかめ、奏がクスリと笑った。
「俺も、そうコンスタントに詞やら曲やら浮かばへんし……」
 呟き、航がハッと奏を見る。
「奏、居(お)るやん!」
「ぼ、僕……が何か?」
「曲、書けるやんな?」
 二人の演奏を聴いて、即興で“秋桜の丘”の編曲が出来る程である。書けない筈はない! と航は踏んだようだ。
「演奏用のなら何曲か遊びで書いたのがあるけど……。本格的には……」
 “遊び”で……すら、慎太郎にはムリである。
「今度、聴かして!」
 ウキウキ顔の航に対して、うんざり顔の慎太郎。
「大丈夫やて! そんなにハイペースにはせーへんから!」
 笑いながら、手をパタパタと振る。
「でも、これは土曜日には歌いたいな……」
「お前、それを“ハイペース”って言うんじゃないのか?」
 慎太郎に言われ、航が奏を見る。
「だね」