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WishⅡ  ~ 高校2年生 ~

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 申し訳なさそうに二人を見る奏。母がした話もそうだが、何よりも奏が探してまで聴きに行く程の演奏が如何ほどの物なのか確かめたいという思いもあるのだと、奏は感じていた。
「迷惑なんかじゃないけど……。なぁ?」
「俺等、丸々ど素人やで?」
 奏の父の職業を理解している二人が、首を傾げる。
「深い意味はないと思うんだ。……ダメかな?」
 二人揃って奏を見て、再び顔を見合わせる。一瞬の間に暗黙の了解が交わされ、
「じゃ、弁当は奏んちで食うか!」
「ついでに、午後の練習もやらしてもらっていい?」
 二人がいつもの笑顔に戻った。
「勿論!」
 練習が聴けるなんて、ちょっと得した気分の奏が先に立ち、三人は藤森家へと向かった。

  
 藤森宅に到着後、すぐに早めの昼食を済ませ、とりあえず、藤森父に聴かせる為の練習を開始する。プロである藤森父の耳に入れて、ガッカリさせない程度には弾きたいのだ。が、練習を開始して間もなく、その父から連絡が入った。
「ごめんね。なんだか、仕事が押してるみたいで……」
 なにやら仕事が難航しているらしく、今日はどうやら間に合いそうにないらしい。それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろす二人。実は、気が気ではなかったのだ。
「あー……なんか、一安心……」
 改めて“秋桜の丘”を弾きながら笑う慎太郎の横で、
「実は、めっちゃ緊張してた」
 やっぱりギターを弾きながら航も笑った。
 静かなリビングに、ギターの音色が響いていく。外で弾くのとは違い、弾いた音が自分達の耳で確認できる。航のピンと張り詰めた音に、慎太郎の優しい音が包み込むように重なり、曲はクライマックスへと差し掛かる。
 と、
  
  ♪♪♪♪♪
  
 不意に聴いた事のない旋律が重なり、ギターを弾いている二人が顔を上げた。
 旋律の主は奏のピアノ。主旋律のギターを邪魔する事なく、コスモス畑を新しい風が揺らしているかのようだ。
 高い音の羅列がギターのコスモスの向こう側を吹き抜ける。
 自分達の音の心地良さに思わず目を閉じて聴き入る航と慎太郎。目を閉じ、音と音のハーモニーに鼓動が高鳴る。
 やがて、重なった三つの音が止まり、演奏の終わりを告げた。
「奏っ!!」
 掛けていたギターを背に回して、航がピアノ前の奏に抱きついた。
「凄い! 凄い! めっちゃ気持ち良かった!!」
「ホントはそういう曲なわけ?」
 驚き顔のまま慎太郎が問い掛ける。
「……いや……。なんか、こういうのいいかなって……」
「即興!?」
「みたいなもの、かな……」
 原曲を熟知しているからこそ出来得る即興。
「君達のを聴いてると、なんとなく、色々と……」
 そして、“例えばね……”と、弾き出したのは……。
「“僕らの革命”やん」
 まだ二回しか披露していない曲が奏のピアノから流れ出す。恐ろしいまでの記憶力と揺るぎない絶対音感の成せる業だ。
「……♪僕らの今日は……」
 なんとなく歌いだした慎太郎につられて、航がハモっていく。
 やがてツーコーラス目。
 ピアノの音が主旋律だけでなく、弾むような伴奏を伴う。慎太郎の声がそれに合わせて弾みを付け、航が背中のギターを構え直してコードを押さえ始めると、“二人の曲”が“三人の曲”へと変わっていく。どこか危うげな航の音を穏やかな奏の音が支え、その二つを慎太郎の音が包み込んでいる。初めてなのに安定した不思議な音だ。
「奏、天才っ!!」
 再び抱きつく航。
「もったいないなぁ、ここでしか聴けへんなんて……」
 残念そうに呟く航に、
「仕方ないよ」
 と奏が微笑む。
「ちょっとなら、大丈夫なんじゃねーの?」
 テーブルに肘を付いて慎太郎がサラリと言った。
 驚く二人に、慎太郎が続ける。
「元々、リサイタルとかやってたんだろ? 航と違って、人前がダメな訳じゃなかったんだったら、調子の良い時なら平気じゃん?」
「てか、シンタロ。ピアノは持ち運び出来ひん」
 航に言われて、あぁ! と慎太郎。が、今度は奏が気付く。
「……待って! 確か、パパの部屋にキーボードが……」
「持ち運び出来るやつ?」
「……もあったと思う」
 少しの沈黙の後、三人揃って顔を見合わせる。互いの笑顔が、同じ思いなのだと感じさせる。
「まずは、キーボードを探し出して……」
「音合わせして……。って、流石に今日からはムリか……」
 ワクワクと呟く航と奏。その頭を慎太郎が同時に小突いた。
「……ったく、お前らは……」
 と呆れつつ、各々を指差して慎太郎がその勢いにブレーキを掛ける。
「藤森は、ちゃんとご両親の許可を取ってこい。航。音合わせは、藤森のご両親の許可がおりてからだ」
 不貞腐れる航の横で、奏が嬉しそうに笑っている。小突かれた事が、なんだか仲間の輪に入れたみたいで口元が自然に緩むのだ。
「出来れば、病院の方にも訊いた方がいいかもな……」
「シンタロ、細かいなぁ」
「一緒にやるからには、“責任”ってのも必要になるんだよ」
 そう言って自分を見る慎太郎の微笑みが、“俺達がいるから、安心しろ!”と言っているようで、奏は何度も頷いた。

  
「えー……と……」
 翌週、早朝。
 向かって右に慎太郎、左半歩後ろに航。その更に左後ろにキーボード。
「今日から、一人、メンバーが増えました」
 キーボード脇でペコリと頭を下げる奏を拍手が迎える。
「ギター二本の時より、幅が広がったりして、もしかしたら、皆さんより自分達の方が楽しんでるかもしれません」
 慎太郎がエヘヘと笑う。
 航がカウントを取り、三人のライブが始まるのだった。