小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

拝み屋 葵 【壱】 ― 全国行脚編 ―

INDEX|8ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 
 *  *  *

 それから二人は、朝が訪れるまで取り留めのない話題で盛り上がった。
 世界の不況の原因は何だとか、最近の若者は、最近の年寄りは、相撲についてなどなど。

「おいが両親ば探しちゃーよ。絶対に故郷ば見つけ出しちゃるけん」
 東の空が白み出したころ、河童は唐突にそう宣言した。
 葵は目を見開いた驚きの表情を見せたあと、嬉しそうに白い歯を見せた。
「ええよ。気持ちだけもろとくわ。ありがとう」
 今度は河童が驚く番だった。
「なんでなん? 両親に会いたかろーもん?」
 ぎょろりとした大きな目が、更に大きく見開かれている。
「両親はおらへんけど、家族ならちゃんとおるによってな」
 葵の脳裏には、物静かで朗らかな優しい微笑みが浮かんでいた。
「ばってんが、故郷には帰りたかろーもん?」
「故郷なら、ここにあるやんか」
 葵は、よいしょ、と立ち上がり東の空に向かって大きく伸びをする。
「ウチは、この国で生まれた。ウチは、この星で生まれた。ウチは、この世界で生まれた。せやから、ここから見えるところ全部がウチの故郷や。海の向こうも、空の向こうかて、ぜ〜んぶウチの故郷なんや」
 それを聞いた河童は、ただただ絶句していた。
「上手く言えへんねんけど、ウチの故郷は『いま』という『時』なんや。同じ時、同じ時代に存在するすべてが、同じ生まれ故郷を持っとるねん。同郷のモン同士やったら、助け合わな、な?」
「そん通りや!」
 河童はべちべちと水掻きの付いた手を叩いて拍手する。
「一つ、おいと賭けをせんか?」
「別に構へんけど、何を賭けんねんな?」
「次の七夕の夜、おいが故郷に帰れるかどうかばい」

「よっしゃ! オッチャンが外したら、頭の皿もらうでぇ!」
「そっちが外しよったら、おいの気が済むまで相撲の相手ばしてもらうばい!」


 *  *  *

「……っちゅうのんが、先月お使いに行ったときの出来事なんですわ」
 三十畳はあろうかという大きな純和風の部屋で、葵は奥にある簾に向かって熱弁を振るっていた。
「ほう。河童と賭けをしたのか。なかなか面白い話だ」
「もうすぐ七夕やないですか、せやから結果を見届けに行きたいんですわ」
「熊本まで行きたいと言うのだな?」
「そうですねん。この目でしっかと確かめたいんですわ。それが陰陽師としての責任やとウチはそう思とりますねん」
「なるほどな、それはそうとして、熊本の名物には何があったかな?」
「お師匠はん! よー聞いてくれはりました!」
 葵のテンションが一気に弾ける。
 あのお酒が美味しかった、あのお肉は溶けるようだった、山菜の天ぷらが絶品だった、温泉の美肌効果は想像以上だった、などなど。
「湯に浸かりながら、くいっと一杯やるわけか」
「そーですねん! またそれがたまらんのですわ!」
「つまりそれが本当の目的か」
「あ”……」
 葵は畳に両手を付いてがっくりと頭を垂れた。

「では、次の仕事を伝える」
「……なんですやろか」
 葵の声には悲愴感が漂っている。

「からし蓮根を買って来てくれ」
「お師匠はん!」
 からし蓮根とは熊本を代表する郷土料理なのだ。

「ところで、お前はどちらに賭けたのだ?」
 葵は、にっと白い歯を見せて笑った。

「ウチが賭けたんは……」


 その年の七夕の夜、一つだけ例年にない輝きを見せた星があったのだという。

               ― 望郷 了 ―