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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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 慎太郎母と航の祖父母が並んで歩く少し先を慎太郎と航が歩く。高校まではバス通学になる。高校からバス停までは、公園を抜け、商店街のアーケードを抜けて行く。ザッと七・八分といったところだ。
「結構広い公園ねー」
 自分達の歩いている遊歩道よりずっと奥に目をやり、慎太郎母が声をあげた。
「“ちょっと散歩しましょうよ”は聞かねーぞっ!」
 前から後ろの母に慎太郎が釘を刺す。
「あら……」
 “バレちゃった”とばかりに慎太郎母が肩をすくめた。
 暖かな陽射しの中、祖父母の速度に合わせてゆっくりとバス停へと向かう。ふと、見覚えのあるベンチが目に入り、慎太郎が航を突付いた。
「……で、マジでやるのか?」
 慎太郎の言葉に航がニッと笑う。
「……マジかよ……」
 溜息をつきつつ、声を落としたまま続ける。
「俺、“人前”ってのはメチャクチャ苦手なんだけど……」
「でも、歌(うと)たやん。公園(ここ)で二回、学校で一回」
 航が指を立てながら言う。
「“ここ”ってったって、初めは誰も聴いてるなんて思わなかったじゃん。次と卒業式のは、聴いてるのが二・三人だと思ってたからなんとかなったんだろーよ!」
 抵抗するかの様に言う慎太郎を航がジッと睨み上げる。
「な、何だよ!?」
「俺がいると平気って言うてたやん」
 口を尖らせて言う姿が、子供の様だ。やれやれと溜息をついて、“ポン”と慎太郎が航の頭に手を置いた。
「なんやねん!?」
 先刻とは逆に、今度は航が慎太郎に声をあげる。
「なんだかなー……」
 “チビのクセに、こいつに引っ張られてるよな……”などと思いつつ、
「いつまでも“苦手意識”を引っ張ってちゃダメだよな、って思ってさ……」
 呟く様に発せられた慎太郎の言葉に、頭の手を払いながら、
「そーそー!」
 航が笑う。
 卒業式のライブで慎太郎は気が付いた。航だって、決して人前が平気な訳ではないのだ。窓の下にうずくまった真っ赤な顔を思い出す。
「何!?」
 クスクスと笑い出した慎太郎を航が再び睨み上げる。
「いや、お前も人前が苦手だったよなー……って思い出した」
 “ゆでだこだったじゃん?”と指差したその勢いで額を突付く。
「だから、克服するんやん」
 突付かれた額に手を当て、“自分かて、ゆでだこやったやん!”とこぶしで慎太郎の胸を突く。
「俺は、シンタロが居(お)ったら平気やもん!」
「“あれ”でも?」
 クスクスと慎太郎が笑う。
「あれは、終わってからやん! 歌(うと)てる時は平気やったもん!」
 言われてみればそうだ。慎太郎自身、歌っている時は何でもなかった。
「……でも……」
 慎太郎が首をひねる。
「でも、歌ってる時、人がいなかったじゃん?」
「あ……!」
 航も矛盾に気が付く。
「俺等ってさ、ちゃんと意識して大勢の前で歌った事ってないんだよな」
 歌うこと自体に抵抗は無い。知ってる人間の前でなら、たいして緊張もしないし声も普通に出る。だが、面識のない大勢の人の前というのは未知の領域だ。
「そんなん、ここで言うてても始まらへんし!」
 航は“前向き”である。
「今日、これから予定ある?」
「無いけど?」
「ほな、着替えたら付き合(お)うて!」
「何に?」
 問われて、航がチラリと祖父母に視線を流し、小声になる。
「場所さがし」
「“場所”?」
 首を傾げる慎太郎。航が呆れたように言い放つ。
「歌う場所!」
 その言葉に慎太郎が今通り過ぎたベンチを親指で指し示した。
「ここはアカンやろ」
 “高校のまん前やで!”と航が笑う。
「あ、そっか……」
「そういう事してる人も居てへんし。かと言って、あんまり知ってる人ばっかりも嫌やし……。ちょっと離れたとこの方が良うない?」
 航の言う事もご尤もだ。慎太郎が頷き、とりあえず、帰ったらすぐに“場所さがし”にとりかかる事になった。


 一旦帰宅し、昼食を済ませると二人は駅へと向かった。
 バスで移動できる範囲に、大きな公園はない。となると、電車での移動になる。行き先すら決まっていない為、とりあえず駅前のベンチに腰掛けて航が地図を広げた。
「祖父ちゃんから借りて来てん♪」
 意気揚々と近辺のページをめくる。
「ここ……か、ここ?」
 航が目星を付けていた場所を指差した。
「駅からも近いし、そこそこ大きいし……」
「だったら、こっちは?」
 航が指したのと反対方向の駅の公園を指して、慎太郎が言った。
「そっちだと団地とかが回りに多いじゃん? 遊具が充実してる公園かもよ」
 確かに、そういった公園では歌っている人間は少ない。
「……そっか……。そーやな……」
 頷きながら一番近い駅を確認し、
「行こっ!」
 ポケット地図をクルリと丸め、航が券売機を指差す。
「190円……だな」
 小銭を取り出し、各々が一枚ずつ手に取る。
「駅、四つ?」
「いや、五つ」
 二人は改札を抜けるのだった。


 降り立った駅で、地図を見ながら“右? 左?”と交差点で何度か確認しつつ公園へと向かう。十分も歩かないうちに公園へと辿り着いた。
 広い公園は、遊具が殆ど無く、芝生と木立が大半を占め、ベンチが所々に設置してある。『公園』と言うよりは、大きな『庭』と言った所だ。広く仕切られた芝生の広場では、弁当を食べるOLやら母子連れやらの姿があり、ボール遊びをしている子供の姿もあった。
「ムリじゃね?」
 辺りを見回して慎太郎が呟く。
「ここ、まだ入り口やん」
 沿道の案内図を見付けて航が手招き。
「今、ここやん?」
 『現在位置』の赤い文字をトントンと指差して航が言う。確かにまだホンの入り口である。
「広いな、ここ」
 溜息をつくように慎太郎が案内図を見上げる。
「やってるとしたら、ここいら辺?」
 広い公園だと思う。今居る芝生の広場を抜けて、公園内の人工の川を渡った所が緑色で塗られている。【吟遊の木立】と銘打たれているその箇所は、どうやら遊歩道が張り巡らされた人工の林のようだ。
「“吟遊”って、いかにもやん?」
 【木立】に向かって歩きながら、航が笑った。
「……笑えねー……」
 慎太郎は憂鬱でいっぱいである。意気揚々と来たものの、結構な人影にちょっぴり不安が過(よ)ぎる。
「苦手意識を克服!」
 不意に航があげた声に、慎太郎がビクリと反応する。
「ごめん! 驚いた?」
 “自分に喝を入れてんけど……”と航が頭を掻いた。
「ちょっとドキドキして、ヤバイなって思て……」
 そう言って、“アカンなー”と笑う。
「いや、俺もヤバかった」
「一緒や!」
 二人笑う先から、微かに楽器の音と歌声が聴こえ始めた。
「やってる!!」
 航が見えてきた橋の向こうを指差す。
「結構やってそうじゃん」
 幾つもの音が聴こえてきて二人の表情に緊張が走った。