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WishⅡ  ~ 高校1年生 ~

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高 校


 
 桜のシーズンというのは、卒業式には間に合わないし、入学式には終わりになってしまう。今年は何とか持ちこたえているが、ピンクの木立とは少し遠い。そんな散りかけた桜の木が立ち並ぶ校門をくぐり、
「シンちゃん、ネクタイ!」
 慎太郎母が、緩んでいる息子のネクタイに手を伸ばした。
「やめろよ、母さん!」
 恥かしいじゃん!と慎太郎が母の手を振り払う。
「恥(はず)い奴(やっ)ちゃなー……」
 その様子を見て、航がケケケッと笑う。
「うるせぇよ“七五三”!」
 ネクタイを締め直しながら慎太郎が、
「“十五”や! ボケッ!!」
 と突っ掛かってくる航の言葉を
「お子ちゃま!」
 サラリと流し、校舎前のパネルで止まる。
「ここで別れんだ?」
 パネルには【生徒は校舎前に張り出されたクラス毎に四階の教室へ登校。保護者の方は、そのまま体育館へお越し下さい。】と書かれていた。
「母さん、親は直接体育館だってさ」
「祖父ちゃん祖母ちゃんも体育館やて」
 二人揃ってグランドの向こうの体育館を指し示し、保護者三人が
「後でねーっ!」
 と手を振りながら、校舎向こうのグランドへと姿を消した。
「あー、ネクタイ、ウゼェ!」
 母の姿が見えなくなったと同時に、締められたネクタイへと手を伸ばす慎太郎。
「今日一日くらい、ちゃんとしとかんとヤバイって!」
 航が笑いながらそれを止める。
「シンタロ、学ランも、ボタン留めてへんかったもんなー」
 クスクスと笑いながらも、目線はクラス表の上を流れている。
「あった! シンタロ、B組や!」
「お前は?」
「俺……」
 不安気な視線が更に動く。
「……あった!!」
 慎太郎を振り返った顔が、
「B組!!」
 クシャクシャの笑顔になる。その笑顔に合わせるように、慎太郎が航の頭をクシャと撫で、
「四階だっけ?」
 目の前の校舎を指差した。
「うん」
 校舎の玄関に並んだ下駄箱には、既に名前が記されてある。持ってきた校舎履きに履き替えて、二人は教室へと向かうのだった。


 とてつもなく長い来賓の挨拶と不必要に長い校長の挨拶、在校生代表の歓迎の言葉、新入生代表の喜びの言葉、聴いたところで退屈なだけの初耳の校歌……。
 感慨ひとしおの保護者には申し訳ないが、欠伸を噛締めるのに大変な新入生が多数。生徒達にとって“卒業式”も“入学式”も大差ないのだ。
 諸々の挨拶が終わり、やっと教室へと移動。通りすがりに慎太郎がチラリと保護者席を見ると、やっぱり涙ぐんでいる母とその隣で同じく涙ぐむ航の祖父母を見止めた。よく似た保護者だな、と思いつつ、体育館を後にする。
 ――― 改めて教室に入る。最初だから、席は『五十音順』だ。一クラス四十人で、男子十九人、女子二十一人。慎太郎は二番、航は十五番だから、席は廊下側と窓側で結構離れてしまっていた。
「ふ、んっ!!」
 廊下側、前から二番目の席に座って、体育館で我慢していた分、両手を上げて大きく伸びをする慎太郎。
 と、背後から、慎太郎の脇&脇腹へと手が伸びてくる。
「どわっ!?」
 奇声を上げつつ、反射的に振り返ると、
「声、でけぇよ」
「恥(はず)いわー」
 クスクスと笑う、石田と航。
 そう、なんの腐れ縁か、石田も同じクラスなのだ。
「何なんだよ! お前等は!?」
 慎太郎が、赤い顔して小声で怒鳴る。
「でかい図体で、目の前で伸びられたら邪魔だなーって」
「遠くから会いに来た挨拶やん」
 三人揃って、すっかり注目の的である。
「先生、すぐ来るぞ」
 気を取り直して言ってみるが、
「みんな、バラバラやもん」
 航が背中越しに親指で指し示す。言われて見れば、数人ずつの輪があちこちに点在しているではないか。
「一人であそこやと、淋しいやん?」
 “えーなー、石田とシンタロ近くで……”と自分の席を恨めしそうに見る航。
「どーせ、一ヵ月もしたら席替えだよ」
 石田が笑いながら教室を見回す。
「石田、目つきが怪しい!」
 教室中をキョロキョロと動く石田の視線に、航が思わず吹き出した。
「可愛い奴いねーかなー、って……」
 小さな声で二人に呟く石田。
「なんだそりゃ?」
「高校入ったら、まず“彼女”を作る! ってのが目標なのよ、俺」
 石田の答えに慎太郎が言葉もなく呆れる。
「必要だべ?」
 ピシッ! と指差し、石田が言い切った。
「そーなん?」
「さぁ?」
 航と慎太郎にはピンと来ない。
「“部活”は別にして、それ以外に何の楽しみがあんだよ!?」
 石田くん、力説。
「“何”って……」
 石田の言葉を受けて、慎太郎をチラリと見て航がほくそ笑む。
「何、堀越、その笑いは?」
「な・い・しょ♪」
 人差し指を唇に当て石田に笑うと、そのまま慎太郎の肩をパシパシと叩く。
「なっ?」
「痛ぇよ!」
「なになに!? 飯島も何かあんの? てか、二人で何かあんの?」
 食付いてくる石田に、
「ふっふっふっ……」
 航は尚も笑いが止まらない。
「なんだよ! 俺も入れろよ!」
 呆れる慎太郎の後ろで食い下がる石田に、
「石田には、ムリ!!」
 航がアッサリと断言する。
「“ムリ”って、お前」
「ムリやもん」
 と、航がペロリと舌を出し、
「ほーりーこーしー!」
 石田が笑いながら腕を振り上げた瞬間、
「先生!」
 慎太郎が小声を上げ、航がパタパタと席に戻った。
「起立!」
 入ってきた担任自ら号令をかけ、
「このクラスの担任を受け持つ……」
 高校生活がスタートを切るのだった。


「えーっ!? 明日、個人面談なの?」
 初日の学校が終わって、校門で待ち合わせていた保護者と合流したのは、一時間後。保護者は体育館でPTA役員選出等の話し合いがあったらしい。生徒はというと、入学二日目の明日、担任との面談があり、三年後の進路希望を提出と言われた。
「高校受験の時って、三年生になってから学校決めなかったっけ?」
 慎太郎母が首を傾げる。
「それからじゃ間に合わないんじゃねーの?」
 やれやれとばかりに溜息をつきつつ、慎太郎が航を見た。
「お前、決まってんの?」
「ん?」
「希望大学、とか……」
「んー……、なんとなくは……。て言うても、進路だけで学校名までは何とも……」
 そう答えながら、航が祖父母に微笑みかける。
「充分じゃん」
 慎太郎が、また溜息。
「なーんも決めてねーよ、俺……」
 高校に合格するだけでいっぱいいっぱいだったのだ。大学進学なんて、考えてもいない。
「好きな“道”に進んでいいのよ」
 慎太郎母が妙に落ち着いた声で言った。
「私だって、まだまだ仕事出来るし、シンちゃんに特に“弁護士”やら“医者”やらになって欲しいわけじゃないんだから」
 まるで“母子家庭”を守らなければ! と思っている自分の心を見透かされたみたいで、慎太郎が言葉を飲み込む。
「適当に答えておいて、シンちゃんはじっくりと自分のしたい事を探せばいいわ」
 口裏なら、三者面談の時に合わせてあげるから、とウインクを返す母に、
「……適当、ね……」
 慎太郎がまっすぐ前を見る。
「“適当”すら思い浮かばへんにゃ?」
 振り返り様、笑いながら指差す航を
「悪かったな!」
 小突くフリをして慎太郎も笑った。