小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

黒蝶の鱗粉

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

 こいつ馬鹿か? この勝負の勝率を五分五分とみているのか? お前が俺に勝つ可能性は0だろ? それに気付いてないのか? まあいい。じきにそんなもんは馬鹿げた妄想だったと気付かせてやるからな。
 1週間……こいつらの悔しがる言葉が目に浮かぶ。ふふっ笑いが止まらない……こらえきれない笑いを口にしながら、俺はパソコンをシャットダウンした。


【二日目】

 痛い子ちゃん達を馬鹿にするのは非常に気持ちがいい。そんなこと人には言えないけどね。でもそれが人間の本性かもね。そんな訳で俺は朝から気分がいい。
 いつもにまして目覚めがいい俺は、早々に着替え、食卓についた。
 俺の母親は、「朝はご飯食べないと力がつかない」というのが持論らしく、高校生の俺に毎日ご飯と味噌汁を作ってくれる。今日は、炊き込みご飯に目玉焼き。そしてしじみの味噌汁だった。いつも通りだが、お気に入りだ。
 目覚めはよかったが、やっぱり起きたばかり。頭がまだぼーとする。そんな中、やけに蠅が俺の周りを飛び回る。一匹? いやそれ以上。五・六匹程せわしく飛び回っていた。気分良く目覚めたのに、この蠅達のせいで一気に嫌な気持ちになった。不快感をあらわにした俺は、つい母親に八つ当たりをしてしまった。
「この蠅なんなんだよ。ご飯食べるのにきたねーなぁ」
 そんな俺を母親は不思議そうに眺める。
「蠅? いないよ」
「何言ってるんだよ。こんなにいるじゃないか!」
 俺は蠅を払いながら更に強く抗議した。
「え……どこに? ……はぁ……朝から何言ってるの? 早く食べちゃいなさい」
 どれだけ目が悪いんだよ。こんなに飛び交っているのに。と思いながら仕方なしに朝食を食べようとした。すると何かがおかしい……何かが……臭う……鼻をつく嫌な臭い。何かが腐ったような酸っぱい臭い。
 それだけじゃない。炊き込みご飯の粒が一部、ぴくぴく動いている。何かがいると思い、箸でその部分をつかんでみた。
 ……虫?
 白い小さな幼虫みたいなものがぴくぴく動いていた。よく見ると、一匹だけじゃなかった……十匹以上……つまり、ご飯の半分ほどは虫だったのだ。
「…………あ……」
 気持ち悪さに叫び声をあげようとしたが、何故か声が出ない。そればかりか、体が全く動かなかった。パニックになりながらご飯を見ていると、それらの虫は次第に動かなくなり、サナギになった。その後そのサナギから出てきたのは……

……蠅だ……

 ということは……この幼虫……ウジ? 想像を絶する光景に俺の思考は完全に停止した。声に出せない叫び声が頭の中で絶叫として響いていた。俺の頭は絶叫のみ。しかし、その時何気なく目に飛び込んだものには更に驚かされた。
 味噌汁の中に入っていた豆だと思った具は、蠅の卵だったのだ。その卵が孵化してウジになった。無数のウジが味噌汁の中で踊っている。
 ぺちゃぺちゃ音を立てながら、ウジはその身をくねらせていた。
 胃から何かがこみ上げてくるのを感じた。空腹であるはずの胃から、目の前の異常さに誘われ、無理矢理にでもはき出そうとする。胃液の酸っぱい臭いを感じながら、それらが排出されないように精一杯の抵抗を試みた。
 俺はとにかくこの場から立ち去ろうとした。目の前のウジの気持ち悪さに耐えられなかったからだ。痛いほどの鳥肌が立ち、強烈な吐き気はいつまでたっても収まらない。そんな状態から早く逃げたかった。
 でも、何故か金縛りにあったかのように全く動けないのだ。そればかりか、手に持った箸は勝手にご飯の中にいるウジをつかみ、俺の口に放り込んでくる。俺の口もウジの侵入を受け入れ、数匹のウジが勢いよく口の中に入ってきた。当たり前のように歯がウジを勢いよくかみ砕き、エビのようなプリッとした食感、そして酸味の利いた苦い味が口の中に広がってきた。
 俺の体が勝手に動く。端から見たら普通に朝食を食べているように映るだろう。でも違うんだ。ご飯と味噌汁の具はウジなのだ。たまにウジの頭の部分が喉に引っかかり、更に食べてはいけないものを口に入れているという実感が湧いてしまう。
 何度も戻しそうになりながらも、勢いよくウジを食べさせられ、意識を失いそうになりながらもどうにか食事を終わらせた。まさに……地獄だった。
 ふらふらしながら、席を立った途端、腹に異変が起きてきた。腹がぴくぴく動いてきたのだ。腹というより、胃だろうか。そして体の中から「ブーーン」という音が響いてきた。
 まさか……
 そのまさかだった。ブーンと音を立てているそのものが胃から喉を通って外に出ようとしているのだ。音は体の中を響かせて更に大きなものになってきた。
 それと比例するかのように喉の異物感が強くなってきた。
「あ……あ……ぶあああぁぁぁぁぁ」
 俺の鈍い叫び声と共に数十匹の蠅が俺の口から勢いよく飛び出してきた。それらの蠅は逃げることなく俺の周りを漂っていた。
 俺は途方に暮れた。何がどうしたのか全く理解ができない。パニックになりながらもどうにか自分をなだめ、冷静になろうと試みた。
 冷静になればなるほど、ウジを食べた事実が生々しく突きつけられた。何度も何度もその光景が思い出されるのだ。すると、さっきまでどうにかこらえていた嘔吐が再度大きな波として襲ってきた。俺はこらえきれずトイレに走った。
「うげげげぇぇぇぇ!」
 胃にあるものは全てはき出したと思う。それほど勢いよく出てきたのだ。胃の中のものを全て出したことで逆に吐き気がなくなった。口にしたウジも全て体の外に出したという実感からも気分が元に戻った。
 落ち着いたことから、気持ちに余裕が出てきた。それが、この状況に陥ったことに対する怒りを呼んだ。その怒りは朝食を作った母親に向けられる。
「おめー何だよこれ! 気持ちわりーもん食べさせるな!」
 母親は意味が分かっていないらしく、きょとんとしている。次の瞬間、鬼の形相になって俺に吠えてきた。
「おい! これのどこが気持ち悪いんだよ!」
 母親は俺の胸ぐらをつかみながら味噌汁が入っている鍋の側まで連れて行かされた。俺は、さっきのウジを思い出し身を固くした。
 でも……その中身は……普通の味噌汁だった。おかしい……さっき食べたウジは何なのだ。狐につままれたように呆然としていると、母親から更に追い打ちをかけるように言葉を投げ捨てられた。
「おら! 言えよ! どこが気持ち悪いんだよ!」
「あ……え……うん」
 あるはずのものがない。母親に抗議するはずのものがない。しどろもどろになる俺に母親は苛立った。
「クソ息子! 私に反抗するなんて十年早いんだよ! 早く学校に行ってこい!」
 母親に促されるまま、学校に向かう俺。学校に向かいながらも、頭の中は、さっきの出来事を理解しようと必死だった。
 ご飯に大量のウジ……味噌汁の中の豆が卵だった……それが孵化して……サナギになって……蠅になる……ものの数秒で卵から蠅になるか? 体が勝手にウジを食べる……腹の中から大量の蠅が飛び出る……はぁ? 意味分からない……なのに鍋には何もいない……分からない……訳が分からない……
作品名:黒蝶の鱗粉 作家名:仁科 カンヂ