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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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黒蝶の鱗粉

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 あの日から五日経った。
 あれから俺は、何も食べることができなくなった。眠ることができなくなった。「もう……いい……楽にさせてくれ。俺の負けでいい。終わりにさせてくれ」
 俺は、ビルの屋上に立ち、自らの人生に幕を閉じようとしていた。これが呪いというものか……心も体もぼろぼろになって、最後に自分で死ぬ……いや……もうどうでもいい。これで終わりにするんだ。
 俺は、柵を越え、躊躇なく大空にダイブしようとした。
 その時だった。
「駄目だよ。死ぬのは明後日だって言ったじゃないか」
 耳を舐めるようなその声は……気付いた俺は、ギョッとしながら、振り返った。そこには、顔の右半分が腐って頭蓋骨が剥き出しになったあの男。いや化け物が自分の右手中指をボキッと折って、俺の口に突っ込んできた。
 俺は為す術なく、化け物の右指を口の中に受け入れた。そして勝手に口が動いていく。化け物の右指を咀嚼する俺の鼻腔に、腐った肉のツンとした臭いが駆け巡っていく。
「君は焼き肉が好きなんだろ? 僕の肉は美味しいかい? ふふふふっ」
 もうやめてくれ……もうやめてくれ……
「ああああぁぁぁぁぁ!!!」
 叫ばずにはいられなかった。腐った人肉を食べさせられて平然でいられる程、俺の神経は鈍感ではなかった。もう限界だった。
「あれから五日……君は楽しく過ごせたかい? 僕たちから最高のおもてなしを受けたんだ。喜んでもらっているよね? なのに逃げようなんて卑怯だよ。明後日まで君は死ぬことができないんだよ。くくくくくっ」
 化け物は、吐き気を催す程、気味の悪い声を上げながら俺にそう言うと、俺の体は柵から屋上の中心まで引き戻された。
 そう……五日前、全てはあの日から始まった。ありふれた日常から狂気の日々に堕とされたあの日。それは、何気なくネットを覗いていることから始まった。


【一日目】

 俺の趣味は映画鑑賞だ。新作が公開されるとすぐ映画館に足を運び、ブログにレビューを書いていた。まあ自己満足の代物だが、何人か常連が来てコメントを書いてくれると俺も調子にのって評論家ぶってしまう。
 お陰様で、レビューもそろそろ百個に届く勢いになった。調子に乗ったとはいえ、自分でもよくやったと思うよ。
 そんなこんなで、更に調子に乗った俺は、今まで苦手で観ようとしなかったホラー物に手を出した。いわゆる呪いだとか陰気くさいやつだ。
 「悪魔召喚」……ベタだよベタ。今時こんなストレートな題名を臆面もなくつけることができるものだと逆に感心したよ。そんな目で観るものだから、当然レビューも酷評になる。
 俺が「呪いなんかあるわけない。そこから非現実的である」と書いたのに反論した奴がいた。そいつは「呪いはあるんだよ」とコメントしつつ、あるサイトのアドレスを貼っていた。
 俺は、電波なやつを嘲笑してやろうと、そのサイトに乗り込むことにした。
 「黒蝶の鱗粉」……そんなタイトルのこのサイト。黒い蝶が羽ばたくイラストをトレードマークにした、黒魔術を信奉し、人を呪うことに心血を注ぐ痛い子ちゃん達が集まるサイトだった。
 一通り目を通したが、予想以上に痛々しいサイトだった。
「なになに? 憎い相手を嬲り殺す呪法? こわ! 好きな男の彼女を殺す呪法? 迷惑な呪いだなぁ……何? 憎い相手に蚊が沢山寄ってくる呪法? ギャグ?」
 と、様々ある呪いの術紹介を鼻で笑いながら眺めていた。一通り読むと、閲覧者同士が交流する掲示板があることに気付き、それを見ることにした。
「うわ……何これ……」
 鼻歌交じりで覗いていた俺だったが、パソコンを操作していた指が思わず止まってしまった。

――○○マジうざい。早く死ね。
――××を呪って3日目、徐々に弱っていくのが快感。
――私の彼氏を奪った△△を一緒に呪ってくれる有志募集。
――◇◇さん。呪いが効いているんですね。おめでとうございます。
――あっいいですよ。私の憎き奴も一緒に呪ってくれますか? 呪い相互しましょう。
――今日担任からむかつくこと言われました。教師殺す方法教えてください。できるだけ簡単で効果ある方法で。
 
 呪いが公然と肯定される世界。呪って人を傷つけることを助け合って達成しようとする世界。それが当たり前になっている。
 初めは馬鹿にしようと思って覗きにきた。でもこの異様な雰囲気に寒気がした。そして怒りみたいなものがふつふつと湧き上がった。そんな自己中心的な理由で、人を殺そうとか思っていいものか。それを呪いという誰にもばれない卑怯なやり方で……絶対効かないと思うけど、それを信じて本気で人を殺そうとしているその神経に腹が立った。
 嘲笑からマジレスへ。目的が変わってきた。

――むかつくから殺すってそんな自分勝手なことが許されるのですか?

 狂った奴らに宣戦布告だ。そんな思いから、まずは軽いジャブとばかりに言葉を投げかけてみた。

――否定派のお子ちゃまですか藁 空気読め馬鹿
――正義の味方気取りですか? 偽善はもううんざりです。

 すぐにレスがついた。予想はしていたけど、こいつらとは脳みその構造から違うんだな。何を言っても無駄かもな。何をやっているんだ学校教育。生ぬるいことやっているからこんな馬鹿が生まれるんだよ。とため息をつくしかなかった。
 まてよ? こいつら呪いが本当にあると思い込んでいる。そんなものないってことを思い知らせてやろう。

――呪いなんて馬鹿げたものあるわけないだろ。もしあるんだったら俺を殺してみろよ。できないだろ? こんなところで毒吐いて、それで自己満足か?

 これで何も言い返せないだろ? どうせあんなこと言っていても本当は奴らも呪いなんかないって思っているよ。と思ったけど、話はそう転ばなかった。

――ほう。それは我々に対する挑戦だな! 受けて立とうじゃないか。
――死んでもしらねーからな。ガチで呪ってやる。
――全力でお前を呪う。喧嘩売った相手が悪かったね。マジご愁傷様

 ほう、火を付けてしまった。でもまあ、いつまでも俺がぴんぴんしていることを知らせたら、悔しがるだろうな。そして言ってやるよ。「呪いなんてないんだよ」ってね。

――望むところだ。どうせ殺せっこないからね。それでいつまでに殺すんだ? いつまでも先延ばしにして、今呪い中なんですって言われても困るしな。

 期限を設けた方が、俺の勝ちがより明確になる。うやむやにされると困ると思った俺は、いつまでに呪うのか具体的な期限を迫った。すると先程までやりとりをしていた奴とは違う奴が横から入ってきた。

――1週間……今日より1週間、貴様に地獄を見せてやろう。そして1週間後に死ぬ……くっくっくっく

 こいつ悪魔かなんかを気取っているのか? 馬鹿じゃねーの? あきれ果てたね。でもだからこそ、こいつの鼻をあかしたくなってきた。吠え面をかかせてやる。そんな感情で覆われていた。

――1週間ね。OKそれでいい。1週間後、俺がまだぴんぴんしていたら、お前は俺に土下座しろよな。嘘をついてごめんなさいってな(笑
――吾輩が勝ったら貴様は死ぬ……なのに、貴様が勝ったら土下座でいいとは……貴様の命も安いものだな……
作品名:黒蝶の鱗粉 作家名:仁科 カンヂ