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笑門来福  短編集

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結婚披露宴、それぞれの思惑


 小矢野家と瓢箪家の結婚式は滞りなく終わった。
 昨今の結婚式は、質素に行われることが多い。
 親族自体が少なくなってきているので、三親等内ではかなり少ない。 そこで新郎新婦は、友人を2人ずつ招待している。今や、会社の上司や同僚を義理で呼ぶこともなくなりつつあるようだ。それはそれで、別の機会を設けているのだろう。


「瓢箪様、素敵なお嬢様大切に預からせていただきます、ご心配には及びませんですよ」
「小矢野様、ふつつかな娘ではございますが、よろしくお願いいたします。到らないところは、ビシビシ指導してやってくださいませ」
「お義母さま、分からないところだらけですのでお教えください。いっぱい手こずらせてしまうかもしれませんけど、叱らないでくださいね」
「駒子さん、仲良くしていきましょうね。世間でゆう嫁姑問題なんて、うちじゃ関係ありませんよ」

「お義姉さんセンスいいから、化粧の上手な仕方とかファッションの話とかするのん、楽しみ!」
「愛ちゃんとは年が近いし、気が合いそうで良かった」

「わぁ、綺麗、こ・ま・こ、おめでとう、幸せにね。私たちの中で1番乗りやねェ」
「いい旦那さん見つけて・・・羨ましいわぁ。ねぇねぇ、落ち着いたら家に呼んでね」
「ありがとう、小町、あかり、一番に呼ぶから来てね」

「どや果歩吾、オレが紹介した駒子は、なかなか気立てのエエ奴やろ」
「友達思いの荒志よ、お蔭で俺にもつきがまわってきた。おやじの関連会社に就職できて嫁さんもろて、俺はもう幸せもんや」
「ところで果歩吾よ、彼女の友達も来てるんやろ」
「オオ、困太よ、美人揃いが来とる。同じテーブルやよって女と親しくなるチャンスや、お前も頑張れ」


『ご親族ご友人の皆様、披露宴会場へお入りください。準備が整いました』


『それではご新郎ご新婦のご入場でございます』


 披露宴は過ぎていった。
 こじんまりとした会場では来賓のスピーチがあるわけでもなく、同じテーブルの隣どうし、楽しい会話をしながら食事を進めていた。
 メインディッシュも終わりに近づくと、さらにくつろぎ雑談が交わされていた。
 それぞれの思惑を抱きながら・・・。

            ☆  ☆  ☆

 小矢野翼芽は、嫁となる瓢箪駒子に嫉妬していた。今まで手塩にかけてきた息子の果歩吾をとられてしまうからである。
――フン、あんな小娘に、大切な果歩吾ちゃんを渡してたまるもんか

 小矢野愛は同い年の駒子を、ねえさん、って呼ぶなんてと思う。
――あの鼻と目は絶対整形してるわ。兄さんも見る目がないなァ、ま、だれでもよかったんやろけど

 小矢野果歩吾は、そわそわしどおしである。
――えっと、式が終わったらホテルに入って、それから、それから夜までどうしてよ、おかんに聞いといたらよかった。ほんで夜になったら、どう言うたらええんやろ・・・うまいことできるやろか

 瓢箪駒子は隣の席で落ち着かない果歩吾に、冷めた気持ちしか持てない。駒子は、荒志の子供を宿しているのである。荒志にはすでに妻子がいる。結婚することはできないし、親に知られるわけにもいかない。そこで急きょ、荒志の友人と結婚を決めたのである。
――荒志さんのことが忘れられん。この男に身を任せるやなんてぞっとするわ、マザコンみたいやし・・・

 春野荒志は女性によくモテル。駒子が妊娠したと知って驚いた。無論遊びだったからである。
――くわばらくわばら、果歩吾に押しつけれたけど、生まれてくる子に疑いもたんでくれるやろか・・・それにしても駒子の友人、小野ゆうたかいな、美人や、誘たろか

――駒子が一番乗りやなんて悔しい〜、どうみてもおかしい、しかも玉の輿やないの。なんで、美貌の誉れ高い私が結婚でけへんのん。さっきからあの人チラチラ見てはる、気ィあるんやろか
と小野小町。

――ええ〜っと、さっき名前のプレート見といたんやけど、美人のほうが小野小町さん、ちょっととっつきにくい感じやな。星乃あかりさんは気は良さそうやけど、顔の造作がなぁ、ちょっと。恋人は美人がええけど、結婚するんはやっぱ、気立てやろなぁ
と佐手困太。

――あの人、私のことじっと見てはる。誘われたらどないしょ、それより誘ってくれはるんやろか、軽うみられてもあかんし・・・

――小矢野さん、えらい濃い化粧して若造りしてはるわ、服装も派手派手しいし、駒子うまくやっていけるんやろか、いつ戻ってきてもええようにしとかんとな
 瓢箪久子は夫の生主(なまず)をそっと窺った。

――ううっ、ううっ駒子、ううっ、幼稚園のころが一番愛らしかったな『パパ、パパ』ゆうて、ううっ風呂にも一緒に入って・・・ううっ、こんなにきれなって・・・なんで結婚するんや、ああ、あいつを一発殴りたい


 仕事人間の小矢野勤は、今日中に届ける約束になっていた物を鞄に入れて持っていた。とても貴重な物なので、預けないで足元に置いていたのである。それは試作段階の、瓶に入れた揮発性が高い液体であった。
 携帯のメールが気になって鞄に手を入れた時に、ゆるんでいた瓶のキャップがはずれ、それは空気中に拡散していった。

「あんな小娘絶対整形ホテルに入って関係を持つ疑いもたんで結婚でけへんの顔の造作が軽うみられても濃い化粧して若造りしてはるわああ、あいつを一発殴りたい」


 警察と共同開発している自白剤で、思っていることを言葉に出してしまうという薬品であった。


                    2011.02.17


       参照:『連載 たけこさん』【11話 エール!】
作品名:笑門来福  短編集 作家名:健忘真実