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笑門来福  短編集

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バレンタインチョコ、送りました


 私は、SNS・小説投稿サイトに小説を投稿している。主にBLである。
 そこに投稿している人たちの中に、お気に入りの作家たちができてきた。プロフィールを見て、どんな人なのかを想像しながら作品を読むのは、楽しいものである。
 たいていは筋骨たくましい、木村拓哉並みの顔をした男性を思い浮かべるのだが、いやいや常にパソコンの前に座っているのだから、どちらかといえばふくよかな体型なのかもしれない。


 バレンタインデーが近づいてきたある日、何人かの男性のメッセージに私のアドレスを送った。

[はじめまして、あなたのファンです。よろしければアドレスをお教えください。チョコレートをお送りしたいと思っています]

 20人に送った中から返信してきたのは、たったの4人。やはり警戒されたようである。

 ホラーの中にそれとなく濡れ場をしのばせているHさん、いつも期待してわくわくしながら読んでいる。
 ファンタジーが得意のFさん、ほれぼれする文章だ。
 現代小説でキリッと締め括るGさん、福山雅治の容姿をした、きりっとした素敵な男性にちがいない。
 コメディが好きな私は、無論Kさんの大ファンだ。コメディを書かせたら彼の右に出る人はいないと思っている。いや、歴史小説が専門だったかな? きっと、愉快な人にちがいない。陣内智則を想像する。


 最近の多機能携帯電話には、物質転送機能が付いている。
 一辺3センチ程度の大きさの物なら送ることができるのだ。出来るだけ余分なもの、包装紙やリボンなどは付けない方がよい。
 携帯電話が発するビームを物体に当てると、原子レベルに分解し、電気に変換されてケーブルを通って送られる。

 Hさん、Fさん、Gさんには、アーモンドチョコレートの大粒を送った。まあ、気は心である。
 マイフレンドでもあるKさんには、アーモンドチョコとウィスキー入りのチョコを送るつもりだ。
 あっ、その前にちょっと、洗面所へ・・・。


 洗面所から戻った私は手に持っていた物をなにげなく机の上に置き、送るべきチョコレートに携帯電話のビームを当てた。

 しもた! 

 うっかりして一緒にとんでもない物を送ってしまった、と気付いたのは、少し経ってからである。
 あわててメールした。

           ☆  ☆  ☆

 Kは、携帯電話の物質転送ボタンの受信ランプが点滅しているのを見て、わくわくしながら押した。
 小説投稿サイトでマイフレンドになっている、Bさんにちがいない。チョコレートを送りたい、と言っていた。

 プロフィールでは『学生』となっている。いつもロマンチックなBLを書いている人だから、つややかな黒髪を長く伸ばした、乙女チックな美人を想像している。♪はるかちゃん(AKB48)♪

 圧縮されて送られてきた物体を見て、首をひねった。
 個包装のチョコレートに何かが突き立っている。よくよく観察してみると、“歯”のように見えるのだが・・・。

 そのとき、Bさんからのメールが届いた。

[ごめんなさい。私の部分入れ歯を一緒に送ってしまいました。ご面倒ですが、ご返送をお願いいたします]

[Bさんってw学生ですよね^^;]

[そうですよ、シルバー大学の学生です]


                    2011.02.02
作品名:笑門来福  短編集 作家名:健忘真実