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陰陽戦記TAKERU 後編

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「があっ? あ、頭が痛いぃっ!」
 饕餮は目を見開いてガクガク震えながら目を見開いた。
「ば、莫迦な…… この娘の魂は完全に喰らった! 欠片すら残ってる事が…… ぐっ! ぐああああっ?」
 饕餮はその場に膝を付いた。
「やっぱな」
 信じたかいがあったぜ、加奈葉はまだ死んでない、
「学! 加奈葉が生きてるぞ!」
「えっ?」
 学の顔が緩んだ。
「加奈葉ちゃん? 加奈葉ちゃんなのか?」
「っ? ま、まなぶ……」
 加奈葉の言葉は殆ど事切れそうだった。
 だが確実に言った。『学』と……
「まな…… ぶ……」
 加奈葉は生まれたてのトムソンガゼルみたいに足を震わせながら立ち上がった。
「ころ…… して……」
「なっ?」
 何つう事を言いやがる?
 ふら付きながら俺達の方に歩み寄ってくる、
「……私、学を…… 美和さんを……」
「お前、食われた時の記憶があるのか?」
 俺が尋ねると加奈葉は頷いた。
 2人を傷つけて朱雀の宝玉を踏みつけて粉々にした事も全て……
「私…… 取り返しのつかない事を……」
「バカ野郎! お前の責じゃねぇ! お前はただ操られてただけで……」
「止めて!」
 加奈葉は俺の言葉を遮った。
「同じよ…… 私が…… この手で美和さんと学を!」
 絶望したように両手を見る、
 今はすっかり奇麗だがさっきまで美和さんと学を手にかけた時には確かに2人の血が付いていた。俺もそれは見た。
「……私…… ……私……」
 さっきも言ったけどこいつは責任感が変なところで強すぎる、
 すると案の定、考えたくも無かった展開になろうとしていた。
 加奈葉は地面に転がった剣を1本拾い上げると自分の首筋に刃を付き立てた。
「加奈葉っ!」
「来ないでっ!」
 自らの命を断とうとする加奈葉を止めようと俺が手を伸ばして一歩踏み出すと加奈葉は一歩下がる、どこのサスペンスドラマだよ…… ただ場所が崖っぷちじゃ無いって所が違う所だけど……
 どうすればいい? こんなシチュエーションだとテレビだとどうしてたっけ?
 いや、これは現実だ。もし万が一首を掻っ切ったとしても玄武で治せる、だがそんな事さえも俺は忘れてパニックになっていた。
 だがその隣の学は真剣な顔で加奈葉に近づいた。
「こ、来ないで…… 来ないでよ!」
「嫌だ」
 それだけだった。さらに加奈葉が続ける!
「来ないで来ないで来ないでっ!」
「嫌だ嫌だ嫌だっ!」
 子供の喧嘩だなこりゃ……
 だけど学が近づく度に加奈葉の手が震える、
 こいつだって本当は死にたくないだろう、
「加奈葉ちゃんが死ぬなら僕も死ぬ! 僕には勉強しか能が無いんだ!」
「そんな…… それはダメ! 学は私に構わず学は生きて……」
「冗談じゃ無い!」
 学は叫んだ。
「取り返しがつかないのは僕だって同じだ。一歩間違えば世界が消えていたかもしれない…… 母さんが死んで自棄になって、暗黒天帝と悪事を働いてた僕を変えてくれたのは加奈葉ちゃんだ!」
「べ、別に私だけの力じゃ……」
「加奈葉ちゃん、取り返しがつかなくたって罪を犯したって…… 生きていくのが人間だ! 僕が言うのも何だけど…… 絶対に逃げちゃいけない!」
 学は加奈葉に近づいて両手を広げ加奈葉を抱きしめた。
「大好きだよ、加奈葉ちゃん、」
「ううっ……  うぁああああん!」
 加奈葉の手の中の剣が黒い瘴気となって消滅、同時にもう1本の剣も消えうせると加奈葉は学の背中に手を回して顔を胸に埋めて泣き出した。
『ぐっ…… おのれェ―――っ!』
 途端加奈葉の背後から尋常じゃ無いほどのどす黒い陰の気が噴出した。
「うあああっ!」 
 加奈葉が大きく体を仰け反ると加奈葉を覆っていた魔獣の鎧も消えうせ、元の私服姿に戻った加奈葉は動かなくなった。
「加奈葉ちゃんっ!」
「加奈葉!」
 俺も加奈葉に近づく、学が首筋に手を当てて脈拍を測る、
「大丈夫、気を失ってるだけだ。」
「そうか……」
 良かったとホッとするがそれも束の間だった。
『チィッ! 使えぬ女め…… あと少しだった物を!』
 加奈葉から抜け出た陰の気が集中すると人型の形になった。
 そして鎧姿の加奈葉になった。香穂ちゃんの時と同じだ。
『だが大分陰の気は集まった。暗黒の復活は叶ったも同然だ!』
「そんな事はさせぇねよ! 俺が食いとめる!」
『莫迦め! 貴様1人に何が出来る?』
「くっ……」
 俺は歯を軋ませた。
 確かに戦えるのは俺だけ、気絶した加奈葉を守りながら戦うのは辛い、
『大人しく暗黒の贄となれ!』
 饕餮の手に陰の気が集まると黒い球体状になって俺に向って放たれた。
「くそっ!」
 俺は破れかぶれで鬼斬り丸に全ての力を注ぎ込んで振り上げた。
「滅っ!」
 すると突然赤い一筋の光が飛んできて饕餮の攻撃を相殺した。
『何ッ?』
 饕餮は目を見開くが俺には分かった。
 今の攻撃を見間違える訳が無い!
「これは……」
 俺は飛んで来た方向を見る、
 俺達がこの神社に入ってきた入り口の方に4つの人影があった。
 それは俺の仲間達だった。その内の1人は俺の愛するべき人だった。
 俺はその彼女の名を呟いた。
「美和さん……」
 美和さんは優しく頷いた。
 今の攻撃を見れば全てが分かる、美和さんは記憶を取り戻した。
 そして朱雀も復活してみんなを連れて京都までテレポートしてきたんだ。
 しかし分からない事が1つあった。それは来ている服が俺と出会った時と同じ奴だった。現代離れ…… と言うか今の京都の町でもコスプレとしか思われないだろう、
「何とか間に合ったな!」
「私も戦う!」
「僕もです!」
 桐生さん、香穂ちゃん、拓朗は聖獣を鎧化させようと宝玉を手に取る、
 だがそこを美和さんが止めた。
「待ってください、ここは私達に任せてください、」
 そう言うと美和さんは弓と一体化した朱雀を前に突き出した。
「行くわよ、朱雀!」
『了解よ!』
 朱雀の弓全体から炎が噴出すとそれが尾を引いて美和さんを包み込むと具現化して鎧となった。ただしこの前の不完全な鎧では無かった。
 白く小さな翼を模した飾りが左右に付いた鳥の頭を模した黄色い嘴に青い目の兜、白い羽毛のような襟に楕円状の2枚のプレートが重なったショルダーガードに背中からは幾つもの刃を重ねたような大きな翼が生え、その下から5本の不死鳥の尾羽が生えた胸当て、膝の丈まであるプレートを幾つも繋いだ腰当に膝を覆い隠した足甲の、全身が燃え盛る真紅の鎧へと変化したのだった。