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コミュニティ・短編家

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お題・三つ編み


 三つ編みの女性がてこてこ歩いていたので僕は声をかけてみた。というのも今時こんなきっちりとした三つ編みをしている女の人なんてめったにいないからだ。それに僕に声をかけられてどぎまぎしない女性はいないからだ。というのも僕がかなりの美少年だからだ。
 彼女は振り向いて押し黙った。僕はにっこりと微笑む。「お姉さん、俯いてどうしたの?」
 彼女はまず僕の顔を見て動揺し、次に僕が思ったのよりも若いのに気付いてまた動揺した。よくあることだ。
「あなたに関係ないわ」
 彼女はまたお決まりの文句を言う。僕はにっこりともう一度微笑む。
「みんなそう言うんだ。…でもそういうわけにもいかないのさ」
「そんなこまっしゃくれた物言いするものじゃないわ。あなたみたいな子供が」
 彼女は憂鬱そうに陰気に答える。顔を上げれば綺麗なのに。
「でも僕は子供じゃないもの。もうずっと子供をやってるからもう子供ってわけにもいかないんだ。それなのにまだ子供を続けなきゃならないんだ。この意味わかるかな」
「子供は子供よ。そのうち嫌でも大人になるんだからいいじゃない。私だって昔は永遠に子供が続くと思ってたわ。でもいつのまにか大人になってしまった」
 その時の絶望感を思い出したのか彼女は押し黙った。うーん、こいつは手強いぞ。
「でもさ、君の三つ編みはとってもいいと思う」
 彼女はそこで初めて少し微笑んだ。それはそれは弱々しく。「願掛けなのよ」
「願掛け?」
 僕は首をひねった。
「えぇ。願いがかなったら髪をほどいて短くするの。…もう随分と伸びてしまったわ」
 なるほど、そういうことか。僕は頷くと彼女のおさげを切った。彼女は呆然と口を開いた。
「何をするの!」
「願が叶ったからさ。家にお帰りよ」
 彼女はそのとたんハッと息を止めて駆け出した。
 彼女は考える。
 どうして私はあんな子供にペラペラと話してしまったのかしら?
 …何故かそうしなくてはいけないと思ったから。
 何故私は彼を最初青年だと思ったのかしら?
 …それは彼の顔がちょうど私の顔の高さにあったから。
 何故子供の顔がそんな高い位置にあったのかしら?
 …それは彼が浮いていたから。
 何故私はそんな大変なことに気付かなかったのかしら?
 …それは彼が…
 ドアを開け放つ。幾度も幾度も夢に見た笑顔が彼女を振り返った。彼女は自分が泣いているのか笑っているのかわからなかった。
「…ただいま!!」
「おかえり」
 彼女は恋人の腕のなかに飛び込む。戦争がやっと終わったのだ。
「私ね」
 彼女は彼の耳に囁く。
「さっき天使に会ったのよ」
作品名:コミュニティ・短編家 作家名:川口暁