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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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15

「さて、小沢さん、お久しぶりです」
行田が小沢と向き合って言った。
「久しぶりだね、秀悟」
机に置いてある銀縁の眼鏡をかけながら言う。
「秀悟がなんでここで出てくるのかわからないんだけど」
「確かに、表面上は俺は関係ないですね。でも俺は松下と岡本の先輩、あなたも俺の先輩だ。これだけで口を出すには十分じゃないんですか?」
「まあ、それで十分だったとしても、秀悟が首を突っ込んでなんになるの?」
「俺からお願いをしようと思って。この二人に近づいたり記事にしたりするのをやめていただきたいな、と」
帰ってきたのは失笑だった。
「僕がどういう返事をするか、わかって言ってる?」
「もちろん、でも俺のお願いを聞くかどうかはこの紙を見てから決めていただいて結構ですよ」
行田がA4の紙を一枚取り出した。
それを机の上に置く。
小沢がその紙を手に取った。
顔つきが厳しくなる。
「俺のお願い、聞いていただけますよね?」
「なるほどね、僕はこれをばらされたくなかったら聞かざるをえないってことだね」
「簡単に言うと、そういうことですね」
「驚いたよ、まさか見つけてくるなんて。ちゃんと削除したんだけどなあ」
「削除したファイルを見つけ出すソフトなんて溢れてますよ」
「ってことは、俺が生徒会にいたときにしてたことは全部筒抜けってわけか」
「そういうことです」
「やれやれ、生徒会の建て直しなんて面倒なことを始める後輩さえいなければねえ」
「それは残念でしたというしかありませんね」
「全くだ。僕は生徒会を追い出されてからいつ君がこれを持ってくるんじゃないかとはらはらしてたよ」
「それは、俺の胸一つにしまっておきますよ、ただしあなたが約束を守ってくれればの話ですけど」
「約束するよ。3年にもなって退学は勘弁してほしいからね」
「わかっていただけたようで嬉しいです。それじゃあ失礼します。その紙は差し上げますよ」
よくわからないやり取りが終わって、行田がドアを開けた。司と孝志を先に通して、ドアを閉めた。
「下校時間とっくにすぎてるけど、生徒会室にいくぞ」


生徒会室でいつものような席順に座る。
「なんでこんなことになったんだ、松下」
「俺がいけないんです」
孝志が言った。
「違うよ、孝志は悪くない、全部原因は俺だよ」
司がそういうのを苦々しい気持ちで孝志が見つめる。
「俺は誰がわるいのかを聞いてるんじゃない。どうしてこんなことになったのか、その経緯を聞いてるんだ・・・まあ大体想像はつくが」
しばらくの沈黙の後に口を開いたのは孝志。
孝志の口から語られたのは、ほぼ行田の想像通りの事実。
「なるほどね、それで松下の携帯にお誘いのメールがきたってわけか」
司が小さくうなずいた。その顔はまだ青い。
けれども精一杯いつもどおりを装って、口を開く。
「行田先輩、助けていただいてありがとうございます。あの紙、なんだったんですか?」
「あの人が生徒会役員時代にしていた不正の証拠」
「生徒会役員?」
「生徒会役員だったんだよ、あの人は。去年の夏くらいまでな」
「去年の夏?なんでまたそんな中途半端な時期に」
生徒会選挙は年度初めの5月。年に1度だけの行事のはず。
「簡潔に言えば俺が追い出した。小沢さんと他2人の3年、それから俺と同学年の役員も一人、生徒会の権力だけ利用して仕事は適当な奴らを全員たたき出した」
行田の生徒会改革は有名だった。
1年の間ではそうでもないが、各部活の部長・会計を任される2年にとってそれは非常に評判がよかった。
会計書類の提出から現金が帰ってくるまでの期間はおどろくほど短くなり、部費の不公平を訴える声も格段に少なくなった。
ほとんど機能していなかった生徒からの苦情処理という本来の仕事も復活してきた。
「だから、何も部活をしてないんですね」
孝志が言う。
「まあ、そういうことだな」
それだけの激務を部活をしながらこなすことは無理だろう。
しかも入学以来成績はトップを守り続けている。
「さて、もう小沢さんのことは心配ないだろ。そろそろ帰るぞ」
言いながら行田が席を立った。
孝志も席を立つが、司は立たなかい。
孝志が心配そうな目を司に向けた。
行田はそれを見て、先生に見つからないように早く帰れよ、と言い置いて生徒会室を出た。
「司、大丈夫か?」
「孝志も先に帰って」
「立てないのか?」
「ゴメン、もうちょっと。先に帰ってて」
孝志の問いかけにはイエスともノーとも言わなかった。
本当は立てないわけじゃない、帰れないわけじゃなかったから。
ただ、孝志が心配してくれる顔を見るのが、申し訳なくて・・・。
体の震えがとまらなかったのは、小沢さんが怖かったからじゃない。
自分のしてしまったことへの恐怖。
だから孝志には、傍にいて欲しいけど、いて欲しくない。
「待ってるに決まってるだろ」
それでも、そんな返事が返ってくることは確信してた。
後ろめたさを感じながらも、安心する。
「・・・ありがと」
それから数分後に席を立った。
「大丈夫そうか?」
「もう大丈夫。おまたせ」
鞄を持って、二人で生徒会室を出た。

駅までの道を二人で歩く。
二人とも何も言わなかった。