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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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ACT,6





 この病室は――仰々しくも院内関係者の間で『開かずの二一〇病室』などと、まことしやかに命名されていることが判明した。知らぬは本人ばかりなり、といったところだ。
 この病室から幽霊話が消えた理由には、悠弥は相変わらず首を捻ることになったが、とにもかくにもそれは謎のままだった。同室の義貴は、そんなものはまったく意に介さない、という調子だったし、そんな話を聞いたからといって、悠弥の身に何が起こったわけでもなかったのだが。だがしかし。
 意外な結末をもたらすことになったのは、『怪音』の方だった。
 ――ずるり……ずるり……。
 夜中、不気味に白いその建物を徘徊する奇怪な物音――それから三日もした頃には、あちらこちらで囁かれるようになっていた。看護婦たちが顔を合わせれば話題は決まっていて、悠弥がおもうところ現代の世の中人はどうにも無邪気なもの。
 何か、濡れたたいそうなものを無理無理ひきずっているような音だとか。水がびちゃびちゃいう音だとか。とにもかくにも『それ』は、外科内科、その他の病棟に出現しているらしいが、『そのもの』の姿を見た、という話は聞かない。
 ――どうにも……解せんな……。
 ざわつく病院内を、怪訝に感じる悠弥は思う。
 ――この胸騒ぎ、のようなものは。
 ――何、だろう――?


 その日の夕方、悠弥が多栄子を見送って病室へ戻ってくると、またいつものように静かに、同室者は堅い雰囲気の厚い本を広げていた。何を読んでいるのかは、尋ねたことがないから、知らない。彼は、由美子といるとき以外は本当に寡黙であるというのが、新たな観察の結果である。表情にもあまり抑揚がなく、感情の起伏が読み取れない。
 穏やかなその横顔を眺めながら悠弥はそんなことを考えている。
 そう……悠弥はこの十日ばかりのあいだになんとなく理解していた。子供の頃、鏡の中に見た虚ろさが、義貴の無感動さに宿っていることを。
 知っている。
 あれは、彼女にしか心を開いていないのだ。どこか不自然さを拭い去ることができない、儀礼的すぎる笑顔も優しい言葉遣いも、外交手段にすぎない。当たり障りなく、人と人との間でやり取りするだけの。仮面に似ている、それ。