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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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「じゃあまずは、ハイラちゃんの姉について、話そうかな」
 つらそうな笑顔で、サクライ先生は話し始める。まるで、話すことそれ自体が自身の寿命を縮めるものであるかのように。
「……咲屋灰良と咲屋朱露……双子の姉妹は、十二月の終わり、吹雪の晩に生まれた……」
 まるで、口から出すその言葉が、自身をひどく傷つけているかのように。
「二人とも元気な赤ん坊で、すくすく育った……それはもう、仲の良い姉妹でね。二人とも可愛く育った……両親の愛を一身に受けながら」
 本当に。
 本当に仲良く。本当に楽しそうな。
 本当の、姉妹だった。
「二人は本当に仲が良かったそうで……まるで二人だけの世界で、……二人だけで、生きているような、感じで……。そう、例えるならそれは――」
 閉じられた輪。
 互いが互い以外を必要としないほどの。
 それだけで完結してしまっている。
 小さな世界。
「ハイラちゃんは、朱露ちゃんを頼りきっていたらしい。依存していたと言っても良い
程に」
 二人だけの世界で、一人だけの、もう一人。自分以外に、頼れる人は、一人だけ。
「いつも『シュロちゃん、シュロちゃん』、と付いていっていたそうだ」
 微笑ましい情景を思い浮かべたのか、サクライ先生はうっすらと唇に笑みを浮かべた。
「でも……」
 輪は途切れた。
「朱露が、死んだんだ」
 二人だけで始まり、二人だけで終わる。そういう世界だったはずなのに。
 残された一人は、永遠に一人だけで生きていかなくてはならなくなった。
 もう完結してしまっていたから。
 閉じられた輪の中で、少女は一人だけ、世界に取り残された。独りぼっちで。頼れる人間もいなくなって。それでも、誰かにすがらなくてはいけなかった。
「ハイラちゃんは、両親にすがった。でも彼らは……、朱露が灰良のせいで失われた、という妄想にとらわれていてね。ハイラちゃんは、両親に頼ることすらできず、片割れを失った傷を抱えて、生き続けていくことを強いられたんだ。まだ、たったの四歳だったというのに」
「でも……何故彼女達のご両親は、そんなことを? 何か根拠となるようなことでもあったんですか?」
 紅也が問い、先生が答える。
「朱露の死に方に、その原因があってね。彼女はハイラちゃんと同じく健康で、いつも元気だった。病気で死んだわけではない。そして、事故死でもない――」
 残る死に方と言えば。寿命による自然死か、もしくは殺害死……最も可能性の少ないものが、自殺死。
「朱露は、ね……首を吊って死んでいたんだよ」
 首を吊って。
 それは、少なくとも、自然な死に方ではない。他殺か、自殺か。まだたったの四歳である女の子が、自らの命を絶つようなコトは有り得ない、と、すると。
「しかも、悪いことにね。ハイラちゃんは自分の姉の……朱露の死に、立ち会っていた、らしいんだ」
「立ち会った……?」
――それは……どういうことですか? つまりそれは、咲屋が殺したと、そういう……?
「いや、事実は定かでない。両親はもう完璧にそう信じ込んでしまっているから、ちゃんとした話も聴けなかったんだ。でもね、こっそり使用人から聞いた話によるとね」
 先生は、他に誰がいるわけでもないのに、声を顰めた。
「どうも……ハイラちゃんは、朱露ちゃんが死ぬ間際の、最期の言葉を聞いていたようなんだ」
 最期の言葉。
 つまりそれは――……遺言、ということか。
「そう。遺言だ。ハイラちゃんは、朱露が首を吊っているその電気コードを、どうにかして外そうとしていたらしい。錯乱していたのかもしれないね。何せ、その時にはもう、朱露はとっくに……」
 目を伏せ、ため息を堪える先生。
 その時にはもうとっくに、死んでいた。死んでいた……。
 幼いハイラは、必至で彼女を助けようとしたのだろう。コードが何処に吊るされていたのかは、知る由もないが……それにぶら下がってみたり、引っ張ってみたりして、……自分の大好きな姉を、取り戻そうと、必死に。もう、とっくに死んでしまっているというのに。
「でも、その様子を両親が見てしまった。多分酷いショックを受けたんだろうね」
 死んでいる一人の娘。
 その周りで『何かをしている』もう一人の娘。
 ああ、だから。
「そのショックの最中、ハイラちゃんの行動が、不気味なモノに思えてしまったのだろうね。そう……、だって、死人の周りで飛び跳ねていたりしたら、誰だって不審に思うからね。……でも」
 でも、ハイラは、その死人の、妹だ。まだたったの四歳になったばかりだ。まさか、そんな風にして、誰かを殺すなど、有り得ない。
「そう思うよ、僕も。だって――四歳で誰かを殺すなんて……、余りにも、有り得ない。あってはいけないことだ。だから、真犯人は他にいるんだろう。でもね、そんなコト、彼女達には関係ないんだよ。何せ、たった一人の姉だ。二人だけの世界で、わざわざ一人になる意味なんて、僕には思いつかない……」
 いや。
 それより何より……、
 咲屋に、人を殺せるわけがない。
『あの』咲屋が、誰かを殺すわけがない。はずがない。
 無邪気な笑顔。人を疑ったことなど、一度もないような。
 …………。