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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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何が起こったのだろう。
 騒音。喚き声。鳴き声。うめき声。怯える声。助けを求める声。何かを請い願い続ける声。
 全てが聞こえた。全てが聞こえすぎて、逆に何も聞き取ることができなかった。全てが反響して、全てがくぐもっていた。
 それは、遠い夢の中の出来事のように。
 それは、遠い世界での出来事のように。
 私の『現実』からかけ離れた世界で、何かが起こり、何かが終わった。
 気がつくと、私は。
 教室の真ん中に一人、机の上に立っていた。右手には椅子を持ち、左手にはコンパスを握り……。
 立ち尽くしていた。
「……………………え?」
 眼前の光景に、私は理由付けを試みようとした。
 台風が来た、とか地震が起こった、とか。でも、だったらどうして私の目の前には頭から血を流している友達が倒れている? どうして、その友達は動かない? どうして、他のクラスメート達が怯えた目でこちらを窺っている? どうして、私はこんなところに立っている? そして、
 どうして私の持っている椅子はあちこちひしゃげていて。
 どうして私の持っているコンパスからは血が滴り落ちていて。
 どうして私はこんなに――
 こんなに、疲れているのだろう?
 私は、肩で息をしながら、再度この状況を確認する。そして、発見した。血を流して倒れている友達は、一人だけではない。二人、三人、四人……。いや、少なくとも十人以上。それも頭からだけではなく、腕や脚、腹から出血している友達も多くいた。皆、うめいていた。いや、うめくことすらできない友達も、たくさんいた。出血はしていなくとも、身体を押さえて、うずくまる友達や、眼を押さえ、咽喉を撫でさすり、嗚咽を漏らす友達もいた。怪我をしていない子は、どうやら数人。
 そして、更なる発見。
 私のすぐ後ろ、背後には――教卓に突っ伏する先生の姿があった。先生は左手で右肩を押さえており、だらりと垂れた右腕からは真っ赤な血が流れ落ちている。
「……だ……れが、こんな……」
 どうして、と言おうと思ったのに、誰が、と言ってしまった私。そんな私を、友達は皆一様に、恐ろしいものを見るような、目つきで見ている……睨み付けて、いる……。黒板には、「良い国つくろう鎌」と書かれている。鎌倉幕府、と書こうとした矢先の出来事だったのか。
 何が起こった?
 何があった?
 この教室で、私が瞬きしたその数瞬後に……どうして、こんなことになっている?
 …………。
 そこまで考えて、私はようやくこの異常な現状を打破しなければいけないことに思い至った。他のクラスは? どうしているのだろう?
 授業中なのだ。他のクラスに行って、とにかく助けを呼ばなくては。早く皆を、助けなくては……。
 思い立ち、私は椅子とコンパスを投げ出した。クラス内の人間が一様にびくっと身を縮めたが、そんなことに構っている余裕はなかった。皆を助けなくてはいけないのだ。どうしてこんなことになってしまっているのかは、二の次だ――……、誰かに助けを求めなくては。
 そう思って、机から飛び降りたその時。
 がた、とドアが音を立てた。
「――……?」
 なんだろう、と思い、そちらを向いた私が見たものは。
 この教室の惨事を恐れつつも動けずにいる、大勢の人間と、先生たちだった。
 皆が、私を見ていた。
 皆が、私を指差していた。
 ――皆が、私をにらんで、
 いた。