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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|71ページ/140ページ|

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「何と!! 陸軍が味方ですと? 何ともスケールの大きい偉業を成し遂げるとは……やはりハル様は菩薩様だ! 皆様、我々の仲間にどうかありがたいお言葉をいただけないでしょうか? 私に愛の偉大さを伝えていただいたように、ハル様達の生の声を伝えていただけたら、皆の生きていこうとする意欲が高まることでしょう」
「え? そんな私は……話せないですよ。マユちゃんならできるでしょ?」
「ここはハルが一発決めなきゃ。リーダーだし」
「え? 違うよ。さっきもみんなマユちゃんがまとめたでしょ?」
「あのさ、ハルちゃんがいてこそみんなついていくんだから、リーダーはハルちゃんなの」
「そうだ。錦鯉のにぃちゃんが言う通りだぜ! 変態のねぇちゃんも頼りになるけどな、やっぱり姉御だぜ!」
「そうだ! そうだ!」
 焦るハル。しかし、他の者は皆、ハル以外に適役はないという考えでまとまっていた。
「皆さんもそう仰っていることですし、ハル様、お願いできますか?」
「じゃあ……マユちゃんとスワン君が横にいてくれたら……」
「OK! ハルの名演説を聞いてやるよ」
「もう! 緊張させないで」
「もうハルったらかわいんだからー」
 マユは、ニヤニヤしながらハルを見つめた。
「姉御! 頑張れよ。俺達も応援しているからな」
 リンの励ましに笑顔で応えようとするが、どうしても表情が引きつってしまう。
「大丈夫かよ……」
 危険なことにも躊躇なく飛び込むことができるハルなのに、そこまで弱気になることが信じられなかった。ハルは超人ではない。ごく普通の気が弱い女なのだ。そう実感させられた。
「皆さん、こちらへどうぞ。我々の仲間を紹介します」
 ハル達が案内されたのは、洞窟の更に奥。最初に転送された場所よりも広い場所だった。野球場よりも広いその場所は天井も高く、数万人も収容できそうな広場だった。その壁の一面には、バルコニーのようなステージがあり、ハル、マユ、スワンはそこに案内された。
「俺達はここで姉御の言葉を聞くよ」
 そう言いながら、リン達は広場に着いた時に足を止めた。
「カルバリン無血同盟の諸君。今すぐ中央広場に集まりなさい。我らの救世主、春江菩薩様が降臨された。今より春江菩薩様の玉音を賜るのである」
 笠木によるアナウンスが洞窟中に響き渡っていた。
「玉音だって……なんか凄いことになってない?」
「俺もそう思った。自己紹介みたいな感じだと思っていたのに、何かためになる話をしなくちゃならないような雰囲気だな」
「マユちゃん……私出来ないよ……代わってくれる?」
「私にはできないよ……手を握ってあげるからハル頑張らないと」
 そう言いながらぎゅっと手を握った。
「うん……頑張る」
「お待たせしました。まずは私が皆に話をしますので、続けてお願いしますね」
 アナウンスをする部屋にいた笠木は、少し遅れてステージに立った。続々と集まる罪人達。邪悪な表情や雰囲気はないが、どこか怯えながら辺りを極端に気にしている様子だった。
「カルバリン無血同盟って何?」
 演説なんて他人事だと思っているスワンは、ハルが極度に緊張していることを心配するよりも、笠木のアナウンス内容に意識が向いた。
「ああ……ここはカルバリンの洞窟と呼ばれている場所なんです。だからこの地名にちなんでカルバリンと名付けました。それで武力による解決を望まないことからカルバリン無血同盟と名乗るようにしたんです。ハル様をかばって地獄に墜ちた同士を含め、殷とローマ帝国に参入する程の力がないものや暴力を嫌う者を誘ってゲリラ組織を作ったというわけです。ただ今約二万人の構成員がいます」
「二万人か。凄いな」
 更に無血同盟の構成員が集まってきた。広大な面積を誇る中央広場も、隙間がないほど人混みで溢れた。
「いよいよですね。それでは、私から話しますので、その後にハル様の演説ですよ。宜しくお願いします」
「え……は……はい」
 ハルは緊張のあまりしどろもどろになってしまった。
「カルバリン無血同盟の諸君。この方こそが私が常々話していた救世主である。私はかつて絶望の淵に落ち、暗黒の深淵を彷徨っていた。しかし、この方の愛にふれることにより、光り輝く希望という名の楽園に踏み出すことが出来たのだ。諸君等は地獄という名の監獄に囚われることにより、絶望しかもつことを許されていなかった。地獄門の銘文はまさにそうであると何度も我らの魂に問い続けていたことだろう。しかし、それは違う。自分ごときくだらない魂が存在することが、この世界の利になるのかという問答は、最早必要ない。春江菩薩様は常に我らの存在に希望の光を照らし、大地にしっかりと足を降ろすことを保障してくれる。今こそ、この方達に忠誠を誓い、同じ道を歩くときである。それが我々であっても、希望という名の光を浴びる資格があることを、心の底から信じ歩くことができる唯一の道なのである。繰り返し言う。この方達に続き、永遠の楽土を我が手に。さあ魂を揺るがす菩薩様のお言葉を今こそ諸君等に送り届ける。心して聞くがいい」
 マユは、笠木の言葉を神妙な面持ちで聞いていた。笠木はハルのことを菩薩と言っている。このことだけをとってもハルが笠木に与えた影響は計り知れないことが分かる。一体現世でハルは何をしていたのだろうか。本当に菩薩と言われるような凄いことをしていたのではないかと思った。
 笠木は、ゲリラ組織をまとめ上げる程の人物である。しかし、立場にある笠木がハルにその主導権を渡そうとしている。しかも全くの躊躇なく。バベルの塔で百人程度の集団になった。それでも大人数だと思っていた。しかし今度は数万人。このままの流れではハルがリーダーになるだろう。そしてそれを支えるのは自分やスワン。自分にその役割を果たすことができるだろうかと心配になってきた。
 マユはハルとスワンを見つめた。緊張してガチガチになっているハル。対して何も考えていないかのように緊張感のない顔で辺りを見渡しているスワン。マユは、スワンの無神経さがむしろ羨ましく思えたのであった。
「いつまでたっても白鳥君は緊張感ないね……空気読みなさいよ」
「何だよまた突っかかるのか?」
 的外れな返答をしているスワンを無視したマユは、緊張しているハルのことが気になった。
「ハルさ、なんかいいこと言わなくちゃいけないって思わないでいいと思うよ。自己紹介だけでいいってば」
「マユちゃん……そうだよね。うん。そうする」
 緊張でガチガチになっていたハルだが、マユの言葉でリラックスできたのか、自然な笑顔でマユを見つめることができた。そしてマイクが設置してある場所に視線を移すと、ゆっくりマイクのそばまで歩いていった。
「皆様、ご紹介にあずかりましたハルです。春江というのは地獄に来る前の名前です。今はハルですので覚えてくださいね。私が改めて皆さんにお話しすることはありません。言いたいことがあったら、その時にしか言えないからです。私は笠木さんのようにお話が上手じゃないし……」
 心を鷲づかみするような強烈な言葉が来ると思っていた無血同盟の構成員は、弱々しいハルの言葉に首をかしげた。話が違うとヤジを飛ばす者も現れた。しかしハルは口調を変えずに話を続けた。