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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

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第12章「孤高のピアニスト」



 笠木によって難を逃れたハル達は、洞窟の中らしき場所に転送された。
「皆さん。お疲れ様でした。ここまで来れば大丈夫です」
「笠木さん。ここはどこ?」
 マユは、辺りを見渡しながら笠木に問いかけた。
 他の者達も同様に、いきなり転送されたこの場の状況を理解しようと歩き回ったり、互いに語り合ったりと様々な行動をとった。
「マユ様、ここは私達の隠れ家でございます」
「ふーん。でもさ、どうして私達をここに飛ばしたの? 私達をどうするつもり?」
 ハルの言葉により信用して笠木の誘いに乗ったマユだったが、難を逃れて冷静になると笠木が何を意図しているのか心配になった。スワンやリン達も口には出さないものの同じ事を考えていた。
「そうですね。疑うのも無理はない。いや、むしろそれぐらい慎重でないとこの地獄を渡り歩けない。申し遅れました。私の名前は笠木一平と申します。あなた方で言うジパング出身です」
「笠木さんは、私の……」
「いいえ、ここは私に説明させてください。ここまでお連れした責任もありますから」
 笠木への疑いを晴らそうと口を開いたハルだったが、笠木の言葉に圧倒され口を閉じた。
「……はい」
「私はジパングの大学で教員をしておりました。しかし、家族で海水浴をしたときに息子が溺れましてね、助けにいった私も一緒に流されました。息子を守れなかった悔しさと、大学で行っていた研究がこんな形で幕を閉じることを無念に思い……」
「地縛霊になったって?」
 スワンが話に割って入ってきた。
「その通りです。ベリー・コロン様」
 皆、笠木が呟いた名前を聞いてびっくりした。スワンのことを別の名で呼んだ。一体この笠木という男は何者なのか。そしてスワンにまだ開かされていない秘密があるのか。いろんな憶測が皆の中に渦巻いた。
「俺はスワン・ソングだぞ。何だ? そのベリーなんとかって」
「なるほど……記憶が消されているんですね。あなたは以前、転生管理局自殺対策課参事、龍神ベリー・コロンとして活躍されていました。我々元地縛霊にとってかなり有名な方でしたよ」
 スワンは何か思い当たることがあるのか、何も答えず呆然と地面を見つめたまま動かなかった。
「何? またお馬鹿な天使だったっていうこと?」
 茶化すマユだったが、予想に反してスワンは何も反応しなかった。
「いえ、その逆です。天使からゴミのように扱われていた我々……つまり死んでも何らかの事情で成仏できずに現世に残る霊達をの行く末を案じて手を尽くしてくれた。そういう意味で有名だったのですよ」
「ほへー白鳥君がねぇ」
「ここにいらっしゃるハル様も同じで、憎しみや後悔、絶望しか心になくて見るも無惨な姿になった私達にバイオリンを弾き、菩薩のようなそのお心を私に照らしてくださいました。だから私の魂にこびりついていた現世に留まる未練が浄化されて成仏できるようになったのです」
「バイオリン?」
 ハルは、地獄に墜ちる前、バイオリンを弾いていたことに驚いた。てっきり歌だと思っていた。
「はいそうです。ハル様が幻影でお作りになった天使が弾かれたように、地獄に墜ちる前のハル様はバイオリン弾いておられました」
「ハル! だからテンちゃんはバイオリン弾くんだよ。魂のどこかにバイオリンを弾いたという記憶が残ってたんだよ多分」
「そっかー!」
「笠木さん。でもさ、今あんた成仏したとか言ったけど、どうしてここにいるの? 成仏した人は天国に行くんじゃないの?」
「いや、成仏した霊は天国じゃなくて煉獄という場所に行くみたいです。私の守護霊をされていた天使から聞きました。まあ正式にいれば保護観察官って職名らしいですけどね」
「いや、そういうことじゃなくて、どうして成仏するあんたがここにいるの?」
「そうでした。それが大事なことですね。私はハル様のお陰で浄化されました。ハル様はいつも自分のことを犠牲にして他の方に尽くされていました。我々にとって菩薩のような存在だったのです。ですが、そのハル様が、人を救うために罪を犯されたと聞きました。何やら鏡を盗まれたそうで……」
「確かにそうです……神仙鏡とかいう大事なものだって……」
 ハルは自分の罪を赤裸々に語られるのが辛くてつい俯いてしまった。しかし事実は事実、逃げては駄目だと自分を戒め、キリッとした顔で笠木の顔を見つめた。
「我々には分かるんですよ。ハル様が罪を犯すことがどういうことか……自分が罪人だと後ろ指を指されても、地獄に墜ちることいなったとしても、人を救うためなら躊躇せずに飛び込む方なんです。だからその愛に報いるために、私達はハル様をかばいました」
「だから地獄に……」
「その通りです。私だけではありません。この洞窟の奥には私と一緒に地獄に墜ちた仲間がいます。皆ハル様に助けられ、真の愛に目覚めた者達です。誰一人地獄に墜ちたことを後悔していません。そしてあなた……ベリーコロン様……いやスワン・ソング様も」
 皆一斉にスワンを見つめた。その視線に気付いたスワンは重い口を開いた。
「笠木さんの言う通りだよ。俺もハルを助けようとして地獄に墜ちた。つかさ、俺が守れなかった人ってハルなんだよな。この地獄に来る前に思い出したよ。な、ハルも思い出したろ?」
「うん。スワン君が地獄に墜ちる直前……私そばにいた……私のためにスワン君も笠木さんも地獄に墜ちた」
「ハル様……それはいいんですよ。ただ、これだけは言わせてください。あなたがここにいるということは、私はあなたを守りきれなかったということです。今度こそ私はあなたをお守りしたい。スワン様も同じ気持ちのはずです」
 笠木の言葉にスワンは黙って頷いた。
「白鳥君、ハル、笠木さんの言うことは正しい訳ね?」
「ああ」
「うん」
「だったら、ここでお世話になろうよ。私も笠木さんを信用することにする。ね? リンちゃん達もいいでしょ?」
「おお、俺達もそれに異論はねぇ。さすが姉御だな。惚れ直したぜ。なあ?」
「そうだぜ、さすが姉御だ。それに笠木の旦那もかっこいい
「ありがとうございます。ですが……これは受け入れてもらえるか……」
「何よ、はっきりいいなさいよ」
 マユは、口ごもる笠木に業を煮やして続きの言葉を促した。
「我々は、ハル様の自分を犠牲にしてまで人を助けようとする無償の愛に救われた者達です。ですから、人を傷つけることで利を求めてはならないという信念のもとに結びついています。だから、ローマ帝国軍や殷軍に対して武力で対抗しないことを信条にしています。まあそもそも戦う力がない者達が集まっていることもありますけどね」
 笠木の言葉を聞いて、スワンとマユは爆笑した。笠木とハルは何がそんなにおかしいのか分からず驚きの眼でその様子を見つめた。
「何がそんなにおかしいのですか?」
「いやだってさ、ハルが言いそうなことをそのまま笠木さん言うんだもん。そんなことぐらい分かっているよ。ハルと行動を共にするってそういうことだから」
「そうなんだよな笠木さん。俺もさ、そんな甘い考えでどうするのかって思ったよ。でもな、このマユの作戦とかさ、ハルの歌でみんな仲間になったんだからな。バベルの塔では陸軍の天使も味方にしてびっくりしたんだから」