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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

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 信念を貫こうとする時の、凛とした瞳をしながらスワンを見据えていたハルだったが、スワンの問いに答えられず次第にその表情は苦悶に満ちたものになってきた。
 丁度その頃、新規採用の軍人達の雄叫びと、罪人達の叫び声、骨肉が痛めつけられる音などが生々しく響いてきた。そして、塔の中央吹き抜けには軍人達に落とされた罪人達が断末魔の叫びをあげながら墜ちていった。
 その様子を目の当たりにしたハルは、慌てて吹き抜け側まで駆け寄ると、鬼の形相を浮かべながら、その下をのぞき込んだ。
「急がないと……みんなが傷つく」
 ハルは、インドラが登場して下に落とされた罪人を前に、為す術なく立ち往生した時のことを思い出した。あの者達は体を再生させてまた塔を上ろうとしただろう。しかし、また痛めつけられて同様に落とされたら、もしかしたら絶望のあまり消滅の道を選ぶかもしれない。
 あの時と違って多少の精神的な余裕がある。そして今はスワンという心強い仲間が増えた。きっと何か手があるはずだと思った。しかし、その前にスワンを納得させる策を捻り出さなければならない。思いの強さとは裏腹に、何も思いつかないもどかしさがハルを襲った。
 苦悶に満ちた表情をして固まっているハルの側で、マユは妙案が浮かんだのか、静かにニヤリと微笑んだ。
「私にいい考えがある」
 そう言うと、マユのフジョシタロットの「塔」を取り出し、指で弾いた。すると、インドラとスワンがその中から飛び出してきた。
「おいおい、こんな時にふざけるなよ!」
 呆れ顔のスワンをよそに、黙々と作業を続けるマユだった。まず、スワンをつかんで塔の中央吹き抜けに放り投げた。
「何でだよ〜俺投げられた……」
 吹き抜けの底でバラバラに砕け散った幻影の自分を見て落胆するスワン。マユは、そんなことお構いなしとばかりに作業を進めた。
「インドラよ……汝の欲望を解放せよ!」
 マユは天使の口調や硬い表情を真似しながら呟いた。すると、マユがカードから出したインドラがゆっくりと階段を上っていった。それと同時に、新規採用の軍人達が階段から下りてきた。
「私は陸軍十等兵、カルオーネ・パンであ……」
「私は陸軍十等兵、キル・ウッヘンで……」
「私は陸軍……」
「私は……」
 皆次々に自己紹介を始めるが、ハル達はその全てを聞き取ることができずにいたが、その自己紹介も皆途中でやめた。
「インドラ様!!」
 マユが出したインドラは、十等兵達に近づくと、一番最初に自己紹介をしたカルオーネに抱きついたからである。
「カルオーネ……貴様の柔肌を愛でてやろう」
 そう言うと、ふれるかふれないかの微妙なタッチでカルオーネの頬を撫で、更にその部分に息を優しく吹きかけた。その瞬間、カルオーネは泡を吹きながら気絶した。
 この様子を見た他の軍人達は、見てはいけないものを見たような罪悪感を抱きながら、次は自分に降りかかるかもしれないという恐怖から、先に進むことができず、じわりじわりと後ずさりを始めた。
「あと一息」
 そう言いながら、怪しい笑みを浮かべながらマユだったが、男同士の秘め事に対して全く免疫のないスワンは眉間にしわを寄せながら、渋い表情で立ち尽くしていた。
「行け!」
 マユが号令をかけると、インドラは、勢いよく走りながら軍人達に向かっていった。十等兵達は、インドラが自分の体目当てに突進してきていたと勘違いし慌てて敗走を始めた。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
 悲痛な軍人達の叫び声がバベルの塔に響いていった。
 ハル達は、労せずに、全く戦わずに塔を駆け上がっていった。
「戦わずに上る方法あったでしょ?」
 マユは、勝ち誇った顔をしながらスワンに言った後、ハルの方を振り返り、ウインクをした。
「ハル、これだったらいいよね?」
 自分のために戦わないですむ方法を考えてくれた。マユの友情に胸を熱くしながら、ハルは静かに微笑んだ。
 マユが出したインドラを先頭に、休みなくバベルの塔を駆け上がった。途中、他の罪人に遭遇し、その者とも一緒に上ることにした。
「おお、あんたか、歌姫の姉御! 探したぜ!」
 圧縮地獄で一緒に過ごした罪人達とも合流できた。ハル達は、三人だけでなく、百人程の集団になっていた。
 誰かの犠牲の下で達成することはできない。皆で一緒に達成したい。そう願っていたハルにとって一番理想的な展開になろうとしていた。
 これは、ハル達を見ていた、カムリーナやトロンにとっても同じ気持ちだった。しかし、この様子を冷ややかに見つめる者がいた。