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蛇の目

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 ③一日目



昼飯を宿で取った後、山本本家に向かう。
幾つかの蔵を構えた白い壁に覆われた古風な、年季の入った屋敷。
厳めしい空気が漂う、地方有力者の屋敷にふさわしいものだ。
大きな玄関から女中に案内され、明るい広い庭の見える座敷に案内された。
真夏だと言うのに、クーラーなど無い。庭先の林から蝉の声が聞こえる。
三脚に小型ビデオカメラをセットした。

しばらくすると、ワイシャツ姿の汗まみれの大柄な男が、
車椅子を押してやってきた。
車椅子に座るのは、色黒のやせ細った黒メガネの小男。
この暑い中、キッチリとスーツを着ていた。
この男が「山本権造」なのか。

前調査段階で、バブル期に県会議員として大腕を振っていた頃の
写真やニュースビデオなどは見ていたが、その頃の面影など全く無く
脂っけのすっかり抜けた皺くちゃの坊主頭の、
しかしそれでいて尖った鼻等は、この男が
「山本権造」であるらしい・・雰囲気だけは湛えていた。

汗まみれの大柄の男が切り出した。
「父は口内炎が悪化して、今日はぁ、うまぁく話せんのでぇ。
私が、権造さんの通訳をいたしますんでぇ・・。
私ぃ、息子の幸造といいます。よろしく。」
車椅子に乗っているのは、さすがに110 歳の老人である。
その干からびた体が動いていること事態が驚異だ。
「山本権造」は、口をモニョモニョ動かして、挨拶をしてくれた。
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆