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蛇の目

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「この村はね、東、北、西側と三方が山に囲まれているでしょ。
南側は玄戒川の深い谷。通ってこられたでしょ、でっかい橋。
アレがなければ完全な孤立集落なんですよ。むかしから。
あ、あの橋もね権造さんが架けてくださったんですよ。
ここいらじゃ権造橋っていわれてます。
アレのできる前は、木造の橋でしたからぁ。」

「橋だけじゃないですよ、今は廃校になったけれど、
この向こう、祠の横には小学校があったですよ。
いまはぁ廃校になってますがね。それも権造さんが建てられて。
体育館は個人で寄贈されたんです。」

「権造さんのことですか?
いまじゃぁ分家のもんも滅多にお会いできないですよ。
正月にご挨拶に伺うぐらいで。
だってもぉう、権造さんも相当なお歳ですからねぇ。」

「昔は凄かったですよ、そりゃぁ。
あん方は、自民党が嫌いでぇ、でも自民党じゃなきゃ
大きな仕事は出来んかった時代でしたからぁ。
無所属で県会に打って出たんですが。」

「選挙資金は充分あったですがね。米の力でね。
そしたらカネの匂いにアチラから寄ってきてですよ。
自民党の推薦を勝ち取ったです。」

「こん村はねぇ、村のものの半分以上は山本の家のイキがかかってますんで。
いまでも。
バブルのあと、幸造さんがもう少しぃ、頑張ってくれてたらねぇ。
今でも力はあるんだからぁ。」
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆