小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

蛇の目

INDEX|31ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

「そう、あんたぁいいところ突いてたな。“え”ってのは“餌“のことさ
生餌だなぁ」
狂える老人は、ヨロヨロと。しかし、まるで小躍りするように
はしゃいでいるようにも見えた。
「三朗さんは、久しぶりのこの部落の若い男だったからなぁ
白ヘビさまぁ喜んだもんよ。三朗さんもまんざらじゃなかったんだ。
本当さぁ。
我らが血族になろうと頑張ったが、ヘビの血が合わなかったんだな。
白ヘビさまの血ぃ賜ったのになぁ、引きつけ起して死んじまったぁ~。
人を選ぶんだなぁ、どうも。」

「幸造の母親も、同様でなぁ。
あれぇん母親は女としちゃァ悪くなかったがな。
ヒトとしての了見が狭かってよ。
この白ヘビさまぁ見て、馬鹿になっちまって。
10 年ほど、この中に閉じ込めておいたんだが、
幸造以外の子供は皆、どこか欠陥もちでな。
そのうち女ぁ終わっちまったんで、白ヘビさまの怒りを買ってよ。
子供共々、喰われちまった。哀れなもんよォ。」
吐き気が込上げた。

「その点、幸造の嫁はよ、たいしたぁ女の器でなぁ。
ありゃぁよォ、街道筋の女郎屋で拾ってきたおんなでな。
ありゃぁ、ええもんもっておったっぺぇ。
あぁ?幸造はなぁ、男の器量が揃ってなくて、しかも種無しでなぁ。
母親ん畑が悪かったんかいねぇ。
仕方なしにワシがあの嫁拾ってきて、宛がってやったんだわ。」

「んまぁ、血が絶えんようになぁ、
こりゃぁワシが使わされた使命なんだァ。」
ひょっとしてお孫さんと云うのは?
「ほぅじゃ、ワシの種じゃ。孫の省造はぁ、この白ヘビさまの直系よ。
ワシが90 過ぎの子だがなぁ、もぅ、白ヘビさまのご寵愛を受けておるわぁ。
省造は、ほかのモンとは違う。」

権造は、トレードマークとも云えるサングラスを初めて外した。
その眼には、白目が無く、大きな黒目だけが、
無表情にどす黒い地獄を晒しているようだ。
「ワシが成し得なかった若さが省造にはある。
我が血族の血を引継ぎ、この地から再び世を領くのだァ。」

ヘビたちがシュルルルと音をあげ、動き出すと大蛇の間から
全裸の女中と少年が立っていた。粘液と脱皮したヘビの皮のかけらに塗れて。
「私もええ歳で。これからぁ、隠居させてもらいたいんですわぁ。
人間のからだぁってぇえのは、どうも疲れていかんですわぁ。
これより、山本本家の当主を、我が子、省造に譲ろうと思うてですよ。
ワシのしたことを全て。あんたに綴っておいてほしいんだよ。」
悪戯っぽく、舌なめずりした権造の舌先が、ふたつに分かれているのが見えた。
作品名:蛇の目 作家名:平岩隆