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恋の掟は冬の空

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マンションに陽が暮れて


湯船にお湯を張って左足だけをバスタブに乗せて体をお湯に沈めこむのは、気をつけないと頭まで沈みそうな体勢だった。
肩までなんとかつかりたかったから、両手でバスタブに手をかけていた。
頭を洗って、体も洗って、また、湯船につかると、ほんとうに気持ちよかった。ゴミ袋で包まれたギブスの足はなんとか袋の中で濡れないでいた。

風呂から上がると、あっという間に夕闇に外は包まれていた。冬の夜になっていた。
茨城の田舎ならきっと空を見上げれば、いくつもの星が輝いていそうな天気だったけど、ここでは数えるほどの星さえもほんとにかすかな光だった。
ギプスに巻いた袋をはずして、ソファーの前に座り込んでわけもなくボーッと過ごしていた。
夜にビールを少し飲みたかったから、コンビニまであんまり遅くならないうちに買い物に出かけることにした。
さっきケーキを運んだときに片方の杖でも歩けそうだったし、近くだったから背中にバックを背負って、左手に杖1本で家をでた。時間は7時を過ぎていた。さすがに外はずいぶんと寒くなっていた。

「あーっ なんだぁー お前ぇー 」
ちょうど、跳ね飛ばされた交差点の向こうから 大場の声だった。
右手を上げて笑い顔でそれに答えていた。
「あー それでかぁ。電話で夏樹がなんか、かくしてることありそうだったから・・柏倉の事か・・退院してきちゃったわけ?」
交差点を渡って来て目の前なのに相変わらずの大きな声だった。
「いや、外泊許可もらって帰ってきただけ。退院は予定通りに日曜日ね。それより大場これから デートなわけ・・夏樹と・・」
「いやー ほら、ご飯、断られたから家に帰ろうかなぁって思ってたら、バイト先に夏樹から連絡あってさ、家にちょっと来いって呼びつけられたから、いま、そこに車置いてきた。」
いつもの駐車場にワゴン車を置いてきたらしかった。
「そっか」
「で、どこいくのよ。その足で・・」
「ビールないからさ、それでそこのコンビニ行こうかと思って・・」
店はもう目の前だった。
「持てるのかぁ・・それで」
「あっ、ほら。ここに入れるからさ」
背中のバッグを見せていた。
「ほー なるほどねぇー考えるもんだねぇ・・でも、手伝ってやるわ。俺もジュースとか買いたいから」
「いいよ。大丈夫だからさ」
「遠慮すんなって・・」
大きな声でだった。
平気だったけど断る理由もなかったし甘えて付き合ってもらう事にした。
500mlの缶ビールを3本とポップコーンを食べたくなったのでそれを1袋だった。大場はジュースとビールといろんなお菓子を買っているようだった。

「先に1回夏樹の家に寄ってからでいいよね」
俺のビールの袋を右手に、左手に自分の買い物袋を下げながらだった。
「うん。悪いな」
「近くだもん。いいって」
すぐに夏樹の部屋の入り口だった。
「お招きいただきました 大場でございます」
インターホンに向かってだった。
「遅いなぁ、まったく・・」
大場も、さっきの俺と一緒でこっちに向かって開けられたドアにもう少しで頭がぶつかりそうになっていた。
「うわぁー あぶねー」
大げさな声を大場は出していた。
「あっ 劉も一緒かぁ・・内緒にしてたのに・・会っちゃったわけね、もう・・」
「そこの事故られたとこでさ、偶然よ。はぃビールね」
左手の買い物袋をなつきに差し出していた。
「あがって・・」
「ちょっと、これ柏倉んとこに置いてくるからさ、すぐ戻るわ」
今度は、俺のビールが入った袋を差し出していた。
「そうかぁ、じゃ、行って来てよ。優しいのねぇ、今日は・・」
「うるせーなぁ。じゃあなー」
俺も、悪いねって夏樹に言って玄関を後にした。
大場の後を自分のマンションに向かっていた。
「聞いていいかぁ・・あのさ、今夜って、飯一緒に食うかってこの前夏樹に言ったら断られたじゃん、俺って・・で、今日になって、呼ばれてるって何なんだ・・これ・・」
歩きながら振り返りもせずに俺に聞いたみたいだった。
「聞いてるのかぁ・・」
ちょっと返事を返すのに時間がかかっていた。
「聞いてるってば・・それって、たぶん、あとで大場が夏樹に聞いたほうがいいか、それとも、そんな事は気にしないか・・どっちかかなぁ」
「なんだ、それ・・」
「いや、適当に言ってるわけじゃないんだけどさ。夏樹らしいなぁって思うだけ」
「さっぱり、わかんねーや」
わかってるくせにって思っていた。相変わらず前を向いての大場だった。

「冷蔵庫でいいんだろ。入れとくぞぉ」
部屋に入って、ビールを中に閉まってくれていた。
「悪いね。ありがとうね」
「おっ クリスマスケーキあるんだぁ。さすがぁー」
振り返りながら言われていた。
「夏樹もきっとあるだろ。もっとでっかーいのかもよぉ・・」
「俺、あんまり、好きじゃないんだよねぇ。ケーキって・・」
「あっー。お前、今日はうまそうに、もりもり食えよぉー」
「他のはもりもり食うからいいでしょ。ケーキは少しでもよぉー」
確かに食いっぷりは、いい奴だったからもりもり食うんだろうなぁーって想像していた。
「あのさ、まだ星は綺麗に輝いてるのか・・大場の中では、南の星はさ?」
4ヶ月前の夜を思い出しながら話していた。
「なんだぁー いきなり」
「だかーら 好きなのかって話よ。聞かなくてもわかるからいいんだけどさ・・」
「だったら、聞くなよぉ。いきなり、気持ちわりぃなぁ、まったく」
恥ずかしそうにしていた。
「あのさ、直美ちゃんに、何をあげるんだ、今日・・柏倉はさ・・」
「買ってあるんだけどさ、今日、家に帰れるのわかってなかったし、でっかいのよ、少し。だからさ、ほら、赤堤の叔父さんわかるだろ・・あそこの叔母さんに頼んで買ってもらって、家に預かってもらってるんだよね。だから、今日は、あげられないんだよね。ま、わけ言うからいいや」
「ふーん。でっかいって何よ・・」
「それは、内緒。それより、お前は夏樹に何、あげるのよ・・」
「買ってねーもん。そんなの・・」
めずらしく赤い顔をしていた。
「うそつくなって、それで、したこともねーバイトなんか始めたくせに・・」
たぶん、当たりのはずだった。
「うーん。俺も内緒」
恥ずかしそうに笑ってごまかしていた。
「えっと、そろそろ、帰らない?夏樹んとこ・・俺もちょっとやりたい事あるし・・」
「なんだぁ、それ。ま、帰るけどさ、じゃぁー直美ちゃんによろしく言っといてね」
「夏樹にもね。 あっ、あのさ、部屋に入ったら、なるべく今日は静かに話せ、夏樹とな・・・照れて、笑ってごまかしたりすんなよ、大場」
「うっせーなぁ、まったく。うんじゃあなぁ」

なんだかんだで、結局は夏樹は大場と鍋でも食べるんだろうなぁーって思いながら、背中を見送っていた。
俺は、帰ってくる直美をどうやって驚かそうかなぁって考えていた。
あと3時間もしないぐらいで、疲れているだろうけど大好きな直美が帰ってくるはずだった。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生