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恋の掟は冬の空

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OSADAは相変わらずで


西口から東口に抜けるには新宿駅をぐるっと回らなければだったから、入場券で駅の中をとおり抜けて東口にむかっていた。
いつだって人はいっぱいの駅だったから、時間がかかってもとりあえずはぶつからないようにだけは気をつけて歩いていた。
東口を出て、階段を上って地上へだった。階段の端っこを占領して呆れるほどのゆっくりさだった。
久しぶりのお店までの道だったけど、なんにも変わっていなかった。
懐かしい店は角を曲がってすぐの武蔵野ビルのまん前の小さなビルの地下だった。
良く綺麗に掃除された小さな電気のついた看板の頭を叩いて、階段をゆっくりまた、下にだった。

「おぅー サンボー」
カウンター からも ホールからもだった。
相変わらず名前ではなく愛称の サンボだった。
1月ちょっとだったけど、妙に店のにおいも懐かしくてうれしかった。
「すいません お邪魔します。いそがしい時間なのに」
お昼の時間だったからお店はほぼ満員だった。入り口の店長に頭を下げて、買ってきたお菓子を出していた。
「退院したのか。よかったな」
「いえ、今度の日曜日に退院します。今日は外出許可もらってきたんで・・」
「そうかぁ、良かったなぁ 杖で歩けるんだな、もう。ま、ここに座れや」
カウンターのあいてる席だった。
「いいんですか 混んでるのに・・奥の事務所でいいです。仕事のじゃまになっちゃうし」
「いいから 座っとけって サンボ」
カウンターの中からこの店でお客に1番人気のあった 真二さんに声をかけられていた。真二さんは忙しそうにコーヒーをいれながらだった。
新宿の中でこのバイト先の喫茶店は従業員が背がみんなでかくて、かっこいい男の人の店で有名で、真二さんなんかは、女の子のファンまでいるくらいだった。もちろん男の人にも人気があった。俺はなぜか不思議だったけどみんなは180cm以上の身長だったのに、170ちょいの身長でかっこよくもないのに、ここに採用されていた。それで海ばっかりいってて顔が黒くてチビだったから 愛称がチビクロサンボだった。
「今、コーヒー入れてやるから、ゆっくり飲んでいけ、うまいコーヒーなんか飲んでないんだろ」
ここの店のコーヒーはうまくて、なんか難しそうな顔したお客にも結構評判だった。
「すいません ありがとうございます」
躾のきびしい店だったから、いつもより丁寧に頭を下げていた。部活みたいな環境でそんな男だらけのスタッフも居心地が俺には結構良かった。
「あんたぁー おかえりぃー」
いきなり後ろからチーフの山崎さんだった。ホモだったからやっぱり久々でも妙な言い回しだった。けっこういい男なのになぜかホモだった。
「退院したのぉ 早く働いてよぉー 困ってるんだからぁ・・」
「すいません 日曜日に退院ですけど、まだまだ、働けそうにはないんですけど・・」
「もぅー レジにでも、松葉杖で立ってでもいいからさぁ 早くしてよねぇー」
それは どうなんだろうって 苦笑いで答えていた。
「働けるようになったら また お願いします、迷惑かけてすいません」
松葉杖で立ち上がりながらだった。足が治ったらいつでも戻っておいでって店長からも言われていてほんとにありがたかった。
「あんたに当たってきた車の保険屋さぁあ、この前お店に来てこの書類持ってきたんだけど。私に正直に書けとかいうのよぉ あんたの入院してる間の勤務日を、これにって・・」
みせられた書類は、休業補償の書類のようだった。
「なんか カチンときたからさ、あんたのバイトの日数いっぱい書いてハンコ押して渡してあげるから、お金ぶんどっちゃいなさいね。なんかイヤな感じのもてなそうな男なのよぉ。私がさぁ、あのこが交通事故で働きに来れないから お客さんもさびしがってるんだからって言ったら、そんなことを言われても とか言うのよー ほんとにこっちも迷惑かかってるんだからねー って怒鳴ってやったわよぉー そうしたら、バイト募集かけた費用とかが発生したら考えます なんて言うのよー 頭にきたから うちはねーあんたみたいなぶっさいくな男じゃ働けないの、いい男でね品がないとダメだから なかなかそんなの いないわよって怒っといた」
あいかわらずの早口でまくし立てていた。
「はぃ コーヒー 時間あるならのんびりしていけ」
カップをカウンターの向こうから差し出しながら真二さんだった。
俺はどうかはわからなかったけど たしかにいい男ばっかりだった、もちろん性格もだった。
「すいません、ほんとに、少し休憩させてください。いま、デパートで買い物したら少し疲れちゃって・・」
「いいわよー もう、しばらく遊んでいきなさいよ。あんた目当てのお客さんも来るかもしれないし・・」
「そんなの いないでしょ」
そう思っていた。
「あらぁー あんた急にいなくなったから、けっこうお客さんに聞かれて困ったんだから・・交通事故で入院してるのよって言ったら病院教えてください、なんて言われちゃって、丁寧にお断りしたんだから。だってあんた、あのかわいい彼女いるのに困っちゃうでしょ・・それって誤解されそうで・・」
「ありがとうございます。話は半分に聞いておきます」
笑いながら頭をうえから軽く叩かれていた。
「ゆっくりしていきなさい」
言いながらホールのお客様に呼ばれて歩き出していた。
「どうだ、あと1月ぐらいで戻れそうかぁ・・みんな楽しみにして待ってるから、なるべく早くもどってこいや」
真二さんが静かにだった。
週に2回か3回かしか働いていないのに、本当にありがたくって泣きそうだった。

それから、忙しそうに働いている仲間たちは 働きながらの少しの時間に声をかけて話をしてくれた。
何杯かコーヒーをお代わりして席をたって松葉杖にもどったのは2時少し前になっていた。けっこうな時間だったけどあっというまだった。
お店は変わらず俺の好きな店だった。
店の中で、たしかに、大丈夫ですかって声を何人ものお客様にかけられていたけど、男のお客様ばっかりだった。やっぱり そんなもんだって笑っていた。そりゃ、少しは女の子もいたけど。

また新宿駅の中を歩きながら、気持ちは豪徳寺へ だった。
なぜだか、家に帰るのにドキドキして緊張していた。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生