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恋の掟は冬の空

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デパートでいろいろと


ぐるっと地下の売り場を1周すると食べたいものばかりで、困っていた。
ケンタッキーでバイトなんだから鳥はどうかと思ったけど、やっぱり、今日はお決まりなんだろうから、鳥の照り焼きは、買わなきゃなんだろうなって思って売り場の前に立っていた。
七面鳥が本当なんだろうけど、それって1度もクリスマスに食べたことがなかった。
さすがに今日は売り場は朝から混んでいて、ショーケースの中にはデパートだったからその七面鳥の丸焼きまできちんと置かれていた。
二人だったし、こんなには食べられないなぁって思いながらその丸焼きを眺めていた。
「いらっしゃいませ いかがいたしましょうか」
「えっとこの足のところを2本でいいんですが・・これも魅力なんで、どうしようかなぁ・・」
丸焼きに気を引かれていた。
「お値段、この小さいサイズなら、それほど変わらないですから是非こちらいかかでしょう」
確かに値段はちがったけど、それほど高いってわけでもなかった。
「じゃぁ この丸焼きにしてみます」
食べたこともなかったし、ちょっと冒険してみたかった。
「はぃ ありがとうございます」
「すいません、お願いがあるんですけど、包んだらこのバックに入れてもらえませんか。そうしていただけるとありがたいんですけど・・」
財布からお金を出しながら体を斜めにしてさっき買ったばかりの背中のバッグを店員さんに見せながらだった。
「はぃ 大丈夫ですよ。大変ですね、退院なさったばかりですか・・」
「まだ、入院してるんですけど 今日は外泊の許可もらえたので、これから家にかえるところなんです」
おつりをもらって、言いながら背中を店員さんに向けていた。
「じゃあ。ここに入れますね。お気をつけてください、ありがとうございました」
チャックを開けてきちんと中に入れてくれたようだった。
背中に少しだけその重みが伝わっていた。

それから、おいしそうな大根サラダと、ホタテ貝のトマトソースにチーズがかかって焼いてあるのと、舞茸の天麩羅と、チーズを包んで揚げたものを、同じようにそれぞれの売り場の店員さんに頼んで背中のバックにつめてもらっていた。
少しずつ重みが増えるたびに、なんとなく またうれしかった。買っていくたびに直美との距離が近付いていくようだった。
クリスマスの飾り付けが特に綺麗な売り場には、ワインもシャンパンもいろんな種類が綺麗に並べられていた。
ワインを飲むとなぜか頭が痛くなることがあったので、シャンパンでも買おうかなーって、その中にあった綺麗なボトルをしばらく眺めていた。
「これにしようかなぁ」
また、小さく独り言を口にしていた。
すこし小さなボトルだったけど、緑のかわいいボトルに貼られたラベルも綺麗で、中身はほんのりピンク色のようだった。試飲の小さなカップに中身が注がれていた。
「よかったら、少しお飲みになりませんか」
売り場のちょっとかわいい若い店員さんだった。
「はぃ。ちょっといいですか」
そのシャンパンを注いでもらっていた。
「小さい割には、お値段はしますけどおいしいですよ。私もこれが1番のお勧めですから」
飲んでいたけど、未成年だった。
おいしかった。
「やっぱり これにします。おいしいです」
「はい お勧めですから・・・ありがとうございます。私も今夜はこれを飲むことに決めてるんですよ」
誰にでも言ってるのかなぁって少しは思ったけど にっこりのその笑顔に素直にうれしかった。
「えっと、すいませんけど、このバックに入ると思うんですけど、入れてもらってもいいですか」
お金を払いながら またお願いしていた。
「はぃ いいですよ」
「あ、でも、降ろしますね。他にも入ってるんで1番下にそれは入れて欲しいので・・」
「大丈夫ですよ、このままでも、1回お品物を全部出させていただいてもよろしいですか」
背の小さな店員さんだったので言ってみたけど大丈夫なようだった。
「はぃ すいませんがお願いします」
「大変ですね、事故かなんかですか・・」
「バイト帰りに道を歩いてただけなんですけど、目の前で車同士がぶつかって、その1台がこっちに体当たりしてきちゃったから・・ぽっきり折れちゃいました。まだ入院中なんですけど、今日は許可もらって家に帰るところです」
「わぁー ひどいですねぇ・・入院中なんですかまだ・・。でも今日は、これからクリスマスなんですね。いいですね。大学生なんですか・・」
「はぃ」
「私も大学生なんですよ、今日はクリスマスなんだけど、ここでアルバイトなんですよ」
そうなんだーって顔を見ようと思ったけど振り返ると背中が動いちゃうから首だけを後ろに向けていた。
「俺の彼女も今日はバイトです。夜の10時まで・・」
「そうなんだー それでお買い物ですね。遅くても二人でクリスマスなんていいですね。是非このシャンパンお飲みになってくださいね。 はい、これでいいですか。私もバイトが終わったら彼とデートです」
「そうですか、いいですね」
背中に丁寧に入れてくれたシャンパンの重みを感じながらだった。
「助かりました。ありがとうございました。彼とよいクリスマスイブを・・」
振り返って顔をみながらお礼だった。けっこううれしかった。
「いいえ、こちらこそ、ありがとうございました。素敵なクリスマスイブを・・・」
大場が見てたら、直美ちゃんがいるくせに、いちゃいちゃ店員さんとしゃべってるんじゃねーぞーって言われそうだった。

時計を見るとまだ 12時にもなっていなかった。
このまま 豪徳寺に帰ると直美はまだアルバイトに行く前で家にきっといるはずだった。
早く会いたいなーってもちろん思ったけど、やっぱり、彼女のバイトが終わって帰ってくるまで待とうって決めていたから我慢することにした。どこかで時間をつぶさないといけなかった。
ちょうど入院するまでのバイト先は反対側の東口の場所だったから、そのOSADAに向かうことにした。
退院ももう少しだし、お見舞いにもみんな来てくれていたし挨拶にちょうどいいかなって思った。
また、お礼のお土産を買わなきゃだった。
さすがに少しは足も疲れていたけれど、やっぱり うれしい日だったから自然と笑顔の俺に違いなかった。
早く大好きな笑顔の直美が見たかった。


作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生