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管理人さんはマイペース

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 大学一年を終え、春休みを迎えた私は、またそのような女性とサイト上で知り合い、新宿のアルタ前で待ち合わせをしていたのであった。
(写メはお互い交換したし、あとはお互いに手首の内側に書いたハートマークを見せればおっけー!)
 年齢はちょうど20歳。化粧も髪型もアイドル並みで、「君みたいな女性なら一度会っただけじゃ物足りないかも」なんてことまで言ってくれた。私はお気に入りの服を着て、化粧もいつもより念入りにした。
 好きな歌手や見ているドラマも同じらしいから、話題も尽きないはずだ。今日は上手く行くはず。そう思った私は、待ち合わせより一時間も早く着いてしまった。けれど相手を待たせるよりは自分が待ったほうが良いし、少しでも相手に好感を持って欲しかったからだ。

 待ち合わせ時間の30分前を迎えた時、緊張しながら待っている私の背中を、誰かが背後から軽く叩いた。
「一柳、希美さん」
 振り返ると同時に、彼女は私の本名を確かめた。
「は、はいそうですけど……。あ、もしかして」
 戸惑っていた私の反応で察知した彼女は、手首に描いたハートマークを見せた。私はそれを見て彼女が待ち合わせをしていたAYAKAさんだということが分かった。確認すると、彼女は僅かに微笑んでうなずいた。
「じゃ、予定通り喫茶店に入ってとりあえずは話しましょうか」
 お互いを確かめ終えるとすぐに彼女は動き出したので、私も慌てて彼女の後についていった。
 早足で人混みをスルスル避けながら進む彼女を、一生懸命見失わないように追いながら、私はすこし不安になっていた。
 写真で見た彼女と、たった今、前を進んでいる彼女の姿が、全然違うのだ。
 写真ではロングでブラウンのパーマがかった髪型で、薄いギャル系のメイクで年相応という感じだったのに、実際の彼女は襟足が隠れるぐらいのショートボブに黒髪で、化粧も最低限にしか施していないし、失礼だが二十歳にしては少し老けているように感じられた。
(でも写真写りがいい人もいるし……。それに、普通だったらプロフィールに載せる写真だったら尚更綺麗に写すか……)
 髪型なんて変えようと思えば待ち合わせの一時間二時間前にでも変えられるし、気分によってウィッグを使って変えているのかもしれない。
(でも、身体の方は……)
 成人男性と同じぐらいの背丈にジーンズに包まれた細い足、黒いタンクトップなんていう薄手の服を着ている割には、胸のあたりに膨らみがほとんど存在しない。
(もしかして……)
 私の頭の中に、ふと嫌な予感がよぎった。
(この人、実は男……!?)

「ばかちん」
 喫茶店の席に腰を下ろした途端、メニューを開くよりも先に私は彼女(彼?)に、頭をこつんと叩かれた。
「え、え、え……?」
「あんたはだまされてるんだよ」
「ややや、やっぱり、AYAKAさんって……」
「男だったんだよ」
 きゃあと悲鳴を上げながら、私はソファの背もたれに仰け反った。ちょうどテーブルの前に来たウエイトレスさんが首を傾げていた。
「えっと、ご注文は……」
「ホットミルク」
「わ、私は……コーヒーで……」
 かしこまりました、と言ってウエイトレスはすぐに下がっていった。
「なにか勘違いしてるみたいだからちゃんと説明しよう。まず、ぼくは男でもないしAYAKAでもない」
彼女の言うことが本当だとしたら、私はいったい誰とAYAKAさんを勘違いしてしまったのだろうか?
「え、でも手首のハートマーク……というか『AYAKAさんですか?』って聞いたらうなずきましたよね?」
 はぁ、と彼女はため息をつき、ズボンのポケットからタバコを取り出して吸い始めた。
「ぼくはね、あのサイトの管理人なんだ」
「かんり、にん……?」
「サイトを会社に例えるなら社長。アパートに例えるなら大家さん。オーケストラで言えば指揮者。最後のはちょっと違うかな……? ともかく、要はサイト内で公開してるキミの情報やキミたちの会話は、ぼくには筒抜けってこと」
「なんですかそれ!? ……ってことは、あたしがAYAKAさんと交わしてたメールの内容も全部見てたってことですか? そんな管理人という立場を使って人のプライバシー覗くなんて、最低です! 違法です!」
「…………」
 机を両手でバンバン叩く私から視線を外し、彼女は再びため息をタバコの煙と一緒に吐いた。煙は彼女の唇からまっすぐに伸び、その延長線上で空気に混じって消えた。
「利用規約、ちゃんと読んでないでしょ?」
「……?」
「――当サイト内で他のユーザーを不快にさせるような行動や、利用規約に反するような行為を行った場合、ミニメールのチェック、及びアカウントの強制停止をさせて頂く場合があります」
「私は何も悪いことしてませんよ? アカウントもちゃんと使えてるし……」
「うん、確かに君は良い子だよ。君はね」
ウエイトレスが持ってきたホットミルクを受け取り、彼女はタバコを灰皿に置くと、何故かトレーに置いてあるミニカップのミルクを入れだした。
「つまり最初にも言った通り、キミはだまされてたんだよ」
「そ、そんなはずないですっ! AYAKAさんはフレンドの数も多かったし、紹介文も何人かに書かれてて、すごくかわいくて優しい人だって……」
「フレンド数はでっちあげ。紹介文はサクラ」
「う、うそだ! 言いがかりですよそんなの!」
 興奮して睨みつける私に向かって、彼女はメニューを片手に持ち、またも頭をぺちんと軽く叩いた。
「あうぅ〜〜」
「ぼくは素人じゃないの。仕事としてそういうのを見てきてるから分かるし、彼女は既に何件か問題になるようなことを起こしてる。だから言いがかりなんてこともない」
 私はしゅんと肩を縮め、コーヒーをすすった。彼女もミニカップのミルクを五杯ほど入れ終えると、一気にホットミルクを飲み干した。
「彼女は男。しかも問題はそれだけじゃない。複数人いる、と言えばいいのかな」
「複数?」
「彼女、いや彼たちはまず最初に騙しやすそうな子に声を掛けて、デートのお誘いをする。でも実際に待ち合わせ場所に現れるのは男性二三人ほどで、半ば強制的に車に乗せられる」
「そんな……」
「それだけじゃないよ。車に乗せたら近くのホテルに入り、その子の許可が得られればアダルトビデオの撮影をさせられる。許可が得られなければ無理矢理にでも襲われて終了。ホテル代とか出演料、デート代くらいのお金はもらえるけどね」
私は絶句した。本当にそんな残酷なことが現実にあるのだろうか。
「詐欺というか、まぁ完全に犯罪だね。被害者も既に何人も出てるし。こうなってはぼく一人じゃ手に負えないから警察の力も借りたし。多分ニュースを見てればそのうち今ぼくがしゃべったような内容の事件が報道されると思うよ」
「でも……それだったら、待ち合わせをする前から管理人さんとして、注意してくれても良かったのに……」
「ぼくが管理人として君のアカウントに注意を呼びかけて、君は今日のデートをキャンセルすることは出来た?」
「で、出来ますっ。もし、ほんとにそんな理由なら……」
「無理だと思うなぁ。君は過去に人妻とかにも騙されてるわけだし」
「うっ……」
作品名:管理人さんはマイペース 作家名:みこと