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管理人さんはマイペース

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 あかねちゃんのマイペースは今に始まったことではない。思い返せば、出会った当初から私は彼女に振り回されていたのだ。

 私とあかねちゃんが出会ったきっかけは、とある出会い系に関連した出来事だった。
 田舎で産まれた私は高校は家から自転車で通える女子高に通っていたが、大学は田舎から離れたいという理由で、家からは通えない都内の学校を選んだ。
 両親は、私が中学3年の頃に離婚した。原因は父が第二次性徴を迎えた私に発情し、私の身体にトラウマを植え付けたからだ。母はすぐさま離婚して私を引き取り、慰謝料で短大に入れてくれた。
 父にどんなことをされたかは正直覚えていなかった。けれど母は未だに父のことを恨んでいるようだから、相当ひどいことをされたのかもしれなかった。記憶になくても私の心に付けられた傷は取れず、結果的に私は男性恐怖症になってしまった。女子高と女子大を選んだのもそれが理由だった。
 そんなトラウマを持った私には、もちろん彼氏なんて作れなかった。それでも女子同士の会話に恋愛の話は当たり前のようにあるので、恋バナでみんなが盛り上がっている時は、自分がまるで日本語が分からない外国人のように感じられた。
 友達の話についていけなかった私は、そのまま上手く噛みたくても噛み切れないような高校生活を過ごし、短大受験が終わって暇が増えた(私は自己推薦だったため、夏休み前に受験を終えてしまった)ある日、レンタルビデオ店で借りたドラマを見て、同性愛のことを知った。
 元々、トラウマが出来る前に中学の頃に男女の関係性について知った時も、異性愛に対しては大きな嫌悪感があったが、同性愛についてはそういうものはほとんど感じられなかった。
 すぐさま私はそのドラマに虜になり、シリーズ全てに目を通した。それがあったおかげで、残りの高校生活を送れたといってもいいくらいだった。
 もちろんドラマに出ている女性同士の関係に憧れたし、ドラマの影響を受けたのがきっかけかは分からないが、同じクラスの女の子を好きになったこともあった。けれど彼女は私と違って受験真っ最中なので、恋愛など関係なく二人でショッピング等をするすら出来ないまま、私は田舎を離れ、上京していった。
 産まれて初めての一人暮らしも、最初の頃は楽しくて仕方なかった。
 母に些細なことで注意されることもないし、料理を自分で作ったり、家事をしたり、夜にコンビニに行けたりしたのが大人になれたような気がして嬉しかった。
 一人での生活はそれから今に至るまで嫌になることはなかった。だけど、大学が始まってある程度友達が出来始めると、また私は高校時代と同じ立場に置き去りになってしまうのだった。
 学校生活は無理に友達の都合に合わせなくても、自分の授業が終わったらすぐ帰ってしまえば問題なかったが、大学生には大学生なりの付き合いがあるわけで。
「ねぇねぇ、希美。今週の金曜日に●●大学の男子との合コンあるんだけど、良かったら来ない!?」
「希美っ! 一緒にテニスサークル入らない!? 先輩たちすっごくイケメン揃いなの! 一年生なら歓迎会の飲み代、タダらしいからさ! ね、お願い?」
 私はただ「ごめんねごめんね」と謝りながら断ることしか出来なかった。断り続けていれば関係も私だけさらに置いてけぼりになり、誘われることもなくなるどころか、学校ではほとんど友達がいなくなってしまった。
 実家で暮らしていたときは、母は仕事で帰りは遅く、姉妹もいなかったから一人でいても平気だったけれど、一人暮らしでの孤独感は耐えられなかった。
家族もいない、友達もいない、東京の街は越してきたばかりで全然分からない。
唯一の逃げ場が、携帯のSNSサイトだった。
当初は学生なら登録しているのが当然というぐらい有名なサイトに登録して、私と同じようなドラマや漫画がきっかけで同性愛に興味を持ったユーザーの子との会話を楽しんでいた。特に仲良くなった「ももいろさくら」という子とは、直メや電話番号も交換した。
まるでお互い恋人のように楽しく話していたが、知り合って一ヶ月ほど経ったある日、突然メールも電話も来なくなった。こちらから連絡しても全く繋がらず、彼女のハンドルネームを頼りにネットを調べていった結果、私と知り合ったアカウントとは別のアカウントを持っていて、そこには人生を断つ決意表明のような日記が書かれていた。ちょうど連絡が途絶える一日前だった。
顔も本名も知らないまま、好きだった相手を失ってしまった私は、再び深い孤独を思い知らされた。
学校に関してはきちんとサボらずに通っていたし、ドラッグストアでの接客のアルバイトもしっかりこなせていた。だけど一人という孤独の穴からは、抜け出せなかった。
SNSサイトでの知り合いとも、だんだんと深く関わることが出来なくなり、最終的には私はそのサイトを退会してしまった。代わりに、同性愛者のための別なサイトに登録をした。
そのサイトに登録しているユーザーは、レズビアンかバイのどちらかで、私にとっては一番居心地が良かった。同じ考えを持つ人は前のサイトより多くいるし、私と同じ、もしくはそれ以上に悩んでいる人もいたため、お互いに励ましあうことも出来た。
また、そのサイトは出会いを目的とした行為に関しても一応ある程度は認められているため、積極的なユーザーが多いのも特徴だった。寂しい私にとって、そのようなユーザーは、正に救世主のようだった。
私の住んでいるアパートの最寄り駅は、渋谷や新宿から簡単に行ける場所にあるため、同じく都内に住んでいる相手なら、すぐに直接会えるのも都合が良かった。
最初に知り合った女性は、三十路でバツイチの年上の人だった。離婚した原因は、親に無理矢理結婚させられた挙げ句、相手の男性がDVだったらしい。それ以来、私と同じように男性が恐くなってしまったようだ。
彼女の身体は私より大人なだけあって、すごく綺麗だった。テレビで見るようなすらっとした体型の女性が、この世に本当に存在することをその時知った。
女同士で一緒に寝るのはその女性が初めてだったが、やはり嫌悪感はなかった。むしろ安心というベールに包まれているようだった。
だけど、彼女は夫と離婚をしていなかった事実が後になって判明した。彼女は必死に謝って、お詫びとしてブランド品の財布や高級な化粧品をくれたが、もちろんその程度で私の受けたショックは拭えなかった。そんなものよりも、自分のトラウマを馬鹿にされたのと同時に、同性愛自体を否定された気がした。

次に知り合った女性は、私と同じ大学生で二つ三つ上の女性だったから、会う前から比較的話しやすかった。けれど、彼女は最初から長期的に付き合うことを目的としておらず、「一日だけの関係だからね」と直接会って開口一番に宣告された。
そんな相手でも、当時の私は一日でも一緒にいてくれる人がいるだけで、孤独から抜け出せるような気がして、彼女に身を委ねてしまった。
 その女性のような、一日だけの付き合いを私は何人かと繰り返していった私は、寂しさがなくなったかのような感覚に浸っていたが、実際はそのような関係を繰り返せば繰り返すほど、孤独という穴の深さはより増していくのであった。
作品名:管理人さんはマイペース 作家名:みこと