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管理人さんはマイペース

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 あかねちゃんはいつも呆れるほどだらしがない。
「ねぇねぇ、聞いて! 今日ね、携帯会社のCMに出てるA子ちゃんがね、ドラマの撮影か何かで大学のキャンパスに来てたの!」
「ん〜……」
「それでねそれでね、携帯の電池のフタの裏に、サインまでしてもらっちゃったの!」
「んんっ」
ベッドの上で胡座をかき、虚ろな目でどこか宙を見つめたまま、返事のような、喉にたまたま空気が流れてしまったかのような反応をあかねちゃんはした。
「これはもう一生の宝だよぉ〜」
 私が携帯を胸に当ててぴょんぴょん跳ねても、あかねちゃんは一瞥もくれず、テーブルに置いてある灰皿とラークを取った。
「ん〜〜」
「あぁ、はいはい火ねっ。よいしょっと」
私は鞄からジッポを取り出し、あかねちゃんが銜えて待っているタバコに火を灯した。ちなみに私は非喫煙者だ。
「……。でもA子が出てるCMの会社と、希美の携帯の会社って違うじゃん」
「え!? あ……あれ? そうだっけ!?」
「……………」
 あかねちゃんはタバコの煙を吐くだけで、答える気配がない。
「ええ〜〜! じゃあなんだかあたし、会社にケンカ売ったみたいになっちゃったじゃない〜〜! どうしよ……。と、とりあえずもう考えても遅いし、洗濯でもしよっと……」
「…………」
「あぁ、もうまた全部裏返しで洗濯機に放り込んでる! この癖だけは治してって言ってるでしょ〜!?」
「んぁぁ……」
私は頭から湯気を出すように怒りながら、彼女の裏返ったタンクトップを表に返し始めた。
あかねちゃんは服装もだらしがないというか、基本的に黒いタンクトップにジーンズという組み合わせ一種類しかない。しかも、パンツは履くけれど、上はノーブラだ。「産まれてから一度もブラジャーをしたことがない」なんてことを前にも言っていた。厚着をせざるを得ない冬や露出の少ない服装ならそれでも大丈夫だろうが、タンクトップ一枚だけっていうのは色々と危険だと思う。
「よいしょっと。これで全部かな? ……て、あれ? 出かけるの?」
「んん〜」
「あ、ちょ、ちょっと待って、私も行くから〜」
 あかねちゃんはそんなのお構いなしに、くわえタバコをしたまま玄関を開けて勝手に外に行ってしまった。
「もう〜。出かけるならちゃんと言ってよ。靴下洗っちゃったからサンダルで来ちゃったじゃない!」
 急いで私はアパートの階段を下りて、ジーンズのポケットに両手を突っ込んで駐車場を歩く彼女の背中をぺちんとはたいた。
「んあ〜。いいじゃん涼しいから」
「そういう問題じゃないのっ! この格好にサンダルは似合わないのよっ」
「……ふーん。オンナノコは大変だねぇ〜」
「あかねちゃんも女の子じゃないっ! というかここら辺は歩きたばこしちゃいけないんだってば! また大家さんに見つかったら怒られちゃうよっ」
「んん〜」
 彼女は相変わらずの聞こえてるのか聞こえてないのか分からない返事をしながら、タバコをくわえたまま前に進んでいった。
「はぁ、もう……」
と、私がため息を吐いた瞬間に、彼女の足は急に止まった。
「……? どうしたの?」
「サイフ、わすれた」
 ぼそっと独り言のようにそう言うと、あかねちゃんはUターンしてそのまま引き返していった。
「あー、もう、私のお金使っていいからそのまま行こっ! というか、どこに向かってたの〜?」
 あかねちゃんは再び止まって進行方向の方へ身体を向けたが動こうとせず、短くなったタバコをドブの隙間に吐き捨て、再び新しいタバコをくわえた。
「んっ」
「だめっ! 火はあげませんっ!」
「………それじゃあ、仕方ないから――」
「あー! 分かった分かった! 火ぃあげるから、戻らないで〜!」
 背を向けて家に戻ろうとしたあかねちゃんはくるっと顔だけ振り向き、タバコをくわえたまま僅かに口を歪めた。
 私は彼女と出会ってから何万回目かのため息をつきながら、鞄からジッポを取り出した。

 
作品名:管理人さんはマイペース 作家名:みこと