小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載 たけこさん (終)

INDEX|10ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

10話 やっぱり、ご近所さん


『もしもし日出子さん? あたし、おはようさん。巻き寿司作ったんやけど取りにけえへん?』

「あら、おかあさん、おはようございます。こんなに早くに作られたんですか・・・あいにくきょうは幼稚園で節分の行事があって、その後もPTAの仕事があるんですよ。だから伺うのはちょっと・・・すみません、おかあさんの巻き寿司楽しみにしてたんですけど・・・」
と、受話器は置かれた。

「なんや、おかんからか。おかんの巻き寿司なぁ もひとつやからなぁ、今時かんぴょうや高野豆腐だけのは食べれんわなぁ」
「そうなんですよ、もっと豪華でおいしいものが売られてますからねぇ。去年はたくさんいただいて難渋しましたよ」

               ☆

 山谷岳子のひとり息子峰夫は、東京で就職し、日出子と職場結婚をした。それが2年前に大阪勤務となり、岳子の住まいから車で20分で行ける豊中市に住んでいる。小5の稜と年中の沢美がいる。

 昨夜、かんぴょうや高野豆腐、シイタケなどを炊いて味をしみ込ませ、朝早くからせっせと巻き寿司を作った。去年はとても喜んでくれたので、張り切って20本作ったのだが・・・

「なんやこんなに作って・・・わしはせいぜい2本やな」
とつれない富士夫の言葉。
「ちょっとこれ、近所の友達に配って来ますわ」


 というわけで、海老出鯛子の家。
「まぁ、こんなに仰山くれはるん、助かったわぁ。買(こ)うたら高いし、私らやっぱり素朴なんがええわ。懐かしい味やしね。あっ、ちょっと待っとって」
と言って、なにかを持って来た。
「うちのダンナが福岡に出張して買うてきた辛子めんたい、まだ仰山あるさかいこんだけやけど持ってって」


 次に訪れたのは渡舟の家。
「巻き寿司作るんが面倒なって買お思てたんやけど、こういうんはあんまり売ってへんからねぇ、おおきに。そや」
と奥に消え、しばらく待たされた。

「このカニなぁラジオショッピングで買うたんやけど、孫らが集まって年末に大山にスキーしに行って、あの大雪に閉じ込められてな、帰ってきたんは2日の夜中。ゆっくりしてられんゆうてそのまま自分の家に帰ってしもたんやわぁ。カニもいっぱい食べたからいらんて。うちの冷凍庫に仰山入ったままやから、もろてくれたら助かるんや」


 そして掃留鶴子の家には、食べ盛りの子供が3人いるからと多いめに持って行った。
「こんだけもろたら家計が大いに助かります。鉄火巻きだけ何本か買うて来ますわ。ありがとうございます。もらいもんのみかん、箱であるんですけど、少し持って帰っていただけます?」


 最後は、
「えっ、くれはるのん、すんませんなぁ、そもそも節分に巻き寿司食べるようになったんは……(ぐだぐだ、ぺちゃくちゃ)……」

 岳子は帰りたくてうずうずしているのだが、話に切れ目がなくて暇の言葉がはさめない。四面そのかの熱弁に、寒い中1時間も付き合わされて、しかし、グルメの四面が北海道で買って来たといういくらの瓶詰をいただいた。


 巻き寿司がいろんな物に化けて戻ってきたこともそうだが、彼女たちの存在が、岳子を温かく包んでいたことが嬉しかった。

 富士夫と並んで今年の恵方・南南東より少し右側を向いて巻き寿司をほおばった。
 食べ終えるまで無言で、願い事を心の中で唱え続けながら。

――ここまで読んでくださった読者の皆様が健康で、幸せ多き1年を過ごせますように! この連載が続きますように。無論私が中心で、ね!


お知らせ:『政治・社会 憂さ ばなし 短編集』【超高齢者社会】に続きます