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人間屑シリーズ

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池垣隆一の泥濘



 東聖学園に着いたのは午後六時二十分を少し回った所だった。
 生徒達の数は既にまばらで、部活動に勤しむ者達が少しばかり残っているだけのようだ。
「さて……」
 クロはそう言うと、自然な調子で校門近くにいた女子生徒に声をかける。
 私は少し離れた所から、その様子を伺う事にした。
「こんばんは」
 声をかけられた女子生徒が、クロの美しさに圧倒されているのがここからでも分かる。
「池垣先生って、もう帰っちゃったかな?」
 クロはクロとは思えないような、柔らかい笑みで女子生徒に尋ねている。
「あ……っ。えっと……池垣先生ですか? あの……先生は明日の授業の準備で、まだ理科室にいると……思います」
 圧倒的な美しさを持つ同年代の少年を前に、明らかに女子生徒が動揺しているのが見て取れた。顔立ちが綺麗というのは、それだけで特別なのだ。
「そう。申し訳ないんだけど、呼んで来てもらえないかな? どうしても池垣先生と話したい事があるんだ」
 クロは本当に困っていますといった表情を作って、優しい声で女子生徒に懇願した。
「あ……分かりました……。すっ、少し待ってて下さい」
「ああ、有難う。助かるよ」
 そう言ってクロが微笑むと、女子生徒は動揺しながらも校舎へと引き返していった。……クロにあんな顔をされて断れる女子生徒なんて、いるはずが無い。

「ズルイね、クロ」
 女子生徒が去ったのを見計らって、クロに近づきながら声をかける。
 私の方に向き直ったクロは、いつもの吸血鬼らしい氷のような美しさを持つ少年に戻っていた。
「そう?」
 悪びれもせず微笑んでいる。
 そんなクロと秋風を全身で受け止めながら、十分ほど待っていると先程の女子生徒とホームページで見た男とがこちらに向かって来るのが見えた。
「来た」
 クロは喜びを抑えきれないといった様子で、思わず跳ね上がりそうになる自分の唇を噛みしめている。
「どうも有難う」
 近付いた女子生徒に、お礼を言うとクロはすぐさま池垣隆一と向いあった。
「君達は?」
 池垣は不審そうに私達を見比べる。
「崎村カオリさんをご存じですね?」
 開口一番クロはそう言った。
「……っ。彼女が何か?」
 池垣は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐさま教師らしい冷静さを取り戻し私達を品定めでもするかのように見つめ始めた。
 クロはと言うと、自分の予想が当たっていた事に隠しきれない喜びが今にも溢れ出しそうな様子だ。けれどそれを必死に抑えて、クロは沈痛な表情を作り上げていく。
「少し……お話が……」
 俯いた少年を見て、池垣は何を感じたのだろう。私には分からないが、池垣は「分かった」と一言だけ言うと女子生徒に帰宅を促し、私達を学園近くの駐車場へと導いた。
 駐車場は一般のコインパーキングで、そこに東聖学園の生徒の姿は見当たらなかった。
作品名:人間屑シリーズ 作家名:有馬音文