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南の島の星降りて

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静かな稲村ガ崎


結局 チケットは取れたけどバイトが休めなかったので沖縄行きは取りやめになった。もちろん夏樹は田舎に帰っていった。

久々の海岸はにぎやかだった。
大場だけはなぜか静かで、ちょっと不思議だった。
「なんか、俺に文句ありそうな顔してない?大場?」
朝から気になってしょうがなかったので思い切って聞いてみた。
「俺か・・・俺さ、なんかさ、柏倉の事さ、わかんなくて・・」
顔を海に向けてしゃべっていた。
「なにがよ」
「夏樹さ、いま、沖縄帰ってるジャン。知ってるでしょ?柏倉は・・」
なーんか暗かった。
「あぁ、知ってるけど」
長くなりそうだったので、岩場に座りこんだ。

「俺、夏樹が帰る前の日にさ、俺も一緒に行っちゃおうかなーって言ったのよ、あの子に。そしたらさ、柏倉のこと誘ったんだけど、なんか、行けなくなっちゃったんだよね。とか言うわけさ、夏樹がよ。 なんか先週いろいろ、あったんでしょ・・・夏樹も隼人さんも麗華さんも、柏倉も・・。」  
陽に焼けた顔で大場はゆっくりしゃべっていた。
「でさ、そりゃあさ、夏樹からいろいろ聞いたさ、俺も。でもよ、朝からお前と顔合わしてるのによ、柏倉なーにも話してくれないじゃん。それがさー
なんか、俺てきには気に入らないわけよ。わかる?そりゃ俺がさ、夏樹のことを好きなのお前が知ってるから言いづらいのわかるけどよ」

真剣な話をしてるのに悪いと思ったけど、ちょっと笑いそうで困っていた。
「あのさ 俺と夏樹はなんもないぞ」
真剣な顔をしないといけないと思った。

「うーん。なんも、ないからイヤなんだわ、きっと俺。夏樹が、俺より柏倉を好きでさ、そいでお前も夏樹が好きでさ、付き合いだした・・ってのは気が楽なんだよなー。でも、ほれ、お前さ、彼女いるから全然夏樹と付き合うきないでしょ?そんな奴に、夏樹が惚れてると思うと・・なんかこう胸が痛いのよ、俺」
いい奴だなーって思っていた。

「大場、怒るかも知れないけど、言うわ。彼女いなかったら俺、夏樹好きだわ。いい子だもん。でもなそれはどうしようもないことなんだわ。でさ、夏樹が惚れてるかもしれない俺はね、直美って女の子と付き合ってる俺よ。それが事実よ。直美と付き合っていない俺は、お前らの前にいなのよ。お前が今、見てる俺は直美って彼女がいる柏倉だよ。だから 俺は夏樹とは付き合わない」
大場も俺もゆっくり息をしていた。
「柏倉らしいわ・・」
波は静かに岩場に寄せていた。それが心の慰めになるようには思えなかった。

「帰ってくるかなぁ 夏樹・・」
「あれ、月曜日に帰って来るって、言ってたぞ・・お土産持ってくるって言ってたよ。大場も夕方おれん家くる?」
「あーその無神経さが・・ムカツクわ。でも行くわ。俺」
ちょっと二人で笑っていた。
稲村ガ崎の波も静かに笑っているようだった。


あとから聞いたんだけど、「帰ってくるかなー夏樹・・」って大場が言った時に、俺が「そうだなー帰ってくるかなー」って言うのが良かったらしかった。よくわからなかったけど、酔っ払った時に大声で俺に怒っていた。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生