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南の島の星降りて

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豪徳寺の鐘は鳴る


「ビールちょっとくれ」
隼人さんが俺に向かってちょっとぶっきらぼうに言った。
「あ、すいません」
あわてて、缶ビールとコップを差し出すと、隼人さんは缶ビールに口をつけてそのまま飲みだした。
一息飲み干すとテーブルに缶ビールを置いた。
俺は緊張していた。

「好きなんだ・・」
麗華さんにだった。
俺も夏樹も、もちろん麗華さんもわかっていた。
麗華さんは黙っていた。
全員黙っていた。

麗華さんの口元が動いた。
「さっき、劉とキスした・・」
固まった・・そんな展開になるとは思わなかった。

「昨日まで、夏樹と付き合ってた・・」
隼人さんだった。

俺も夏樹は声も体も動かなかった。目だけがクルクルと舞っていた。
空気は静かに流れていた。

誰もが誰かが口を開くのを待っているかのようだった。
「帰るぞ・・麗華・・」
隼人さんだった。
俺も夏樹も、止まっていた息を一気に吐き出していた。
静かに麗華さんは立ちあがった。
頬を伝う涙を麗華さんは隠さなかった。
いいものを見ていた。
夏樹もいい顔をしていた。

立ち上がった麗華さんを抱えている隼人さんは俺と夏樹に頭を下げた。
俺たちは、立ち上がらずにそれを見ていた。
玄関の扉の閉まる音が響いていた。

「なんか、よかったね・・」
夏樹だった。
「ずっと、麗華さんのこと好きなんだもん・・隼人さん。でも、私も好きだったんだけど・・ま、仕方ないよね・・」
少しの笑顔と遠くをみている顔だった。
「ちょっとショックのちょっとほっとした」
返事をしなかったので夏樹は話を続けていた。
「あんなふうに愛されたかったなー」
ちょっと笑っていた。

「飲むか?」
気の利いたことは言えなかった。
「あ、泡盛飲める?劉?」
そんなものは見たことも飲んだこともなかった。
「とって来るね、昨日、沖縄の家から送ってきたから」
言いながらもう立ち上がっていた。
「平気?夜中に?」
「近くだもん。行ってくるね」
夏樹は酔っているだろうに足元はしっかりしていた。

横になって待つことにした。
ちょっとウトウトしてたら玄関の閉まる音とともに夏樹が戻ってきた。
手にお酒の瓶とお皿を抱えていた。
「なに、それ?」
「お腹すいちゃったから、ゴーヤチャンプル作ってきちゃった。食べられる?ゴーヤ?」
初めて聞く名前で、なにがなんだかわからなかった。でも、見ると炒め物だったので、おいしそうだった。
新しいコップと氷と箸を用意した。
夏樹がその泡盛をコップにそそいでくれた。
「さ、乾杯ね」
口にいれてあわてた。
「わー強い?これ?」
「ちょっとね」
言いながら夏樹はおいしそうに飲んでいた。
「やっぱり泡盛はおいしいわー」
俺にはおいしいというより、めっちゃ強い酒だった。

「ねー沖縄遊びにこない?今週帰るんだけど・・」
突然だった。
「バイトあるからなぁー・・飛行機とか取れないでしょ?」
飛行機代っていくらなんだかわからなかった。
「じゃ、取れたら来る?飛行機のチケットこっちで取るから。泊まるのは私の家でいいでしょ?」
家に泊まっても平気なんかなーって考えたけど、酔っていたので、もう、あんまり頭が回っていなかった。

それから、夏樹は泡盛をグイグイ飲みながら、ずっと沖縄の話をしていた。
ゴーヤチャンプルの炒め物は、はじめちょっと苦かったけどおいしかった。
夏樹は俺には良くわからなかったけど、沖縄のおいしい食べ物の話をしていた。

豪徳寺にお寺の鐘がなりだした。
もう朝の5時になっていた。

鐘の音を聞きながら夏樹は家に帰って行った。
「どうせ、劉はキスもしないから、このままいてもここに・・」
笑いながら、そんなセリフを言い残して。

作品名:南の島の星降りて 作家名:森脇劉生