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城塞都市/翅都 40days40nights

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 ジョシュアさんの台詞に、イーシュアンが黙り込んだ。
 なんだか深刻な話のようだ。しかも、兄さんの名前まで聞こえた気がする。
 兄さんの話をしているなら、少しはこんな事態の原因が知れるかもと、改めて耳を澄ませてみたけれど、街のざわめきに声がまぎれて話の内容はもう聞こえなくなってしまっていた。もっと近くまで行けば聞こえるかもしれないと、わたしは齧りかけのトーストを大急ぎで飲み込んで、そっと立ち上がる。
 下に通じる階段は急で狭く、足を踏み外さないよう壁に手をつきながら慎重に降りていくと、いろいろな匂いの入り混じったちょっと埃っぽい空気が、どっと押し寄せるようにわたしを取り囲んだ。
 下は何かのお店になっているらしかった。そう言えばさっき、ジョシュアさんは下で店番とかなんとか、イーシュアンが言ってた気がする。何のお店だろうと階段の終わりにある踊り場からそっと覗き込んだそこは、上の明るさとは正反対に薄暗く、缶詰や干し肉みたいな食料や瓶に入った水の他、靴下なんかの衣料品や洗剤などの日用雑貨からちょっとした薬まで、人がやっと通れるぐらいの通路だけ空けて置かれた棚いっぱいに詰め込まれて、ただ雑然と置かれていた。
 なんだか複雑すぎて、何屋だか判別が付かない。雑貨屋、というよりは便利屋とか、何でも屋ってところだろうか。とにかく統一性が無さすぎる品揃えだった。
「で?一体何買えばいいんだ?」
「ちょっとした日用品はウチで賄えるから、あとは着替えとか下着とか、なんかそんなもん。あとは彼女が必要だってものを、まぁ適当に」
「した、下着ィ!?ンなもんまで面倒見てられっかバカ野郎!」
「面倒って、お前、彼女に自分で選んだブラだのパンティだの着せるつもりなのか?へー、ほー、ふ〜ん……いやらしいヤツだな、お前」
「お前……セクハラで訴えられンぞ、その内」
「弟をからかったぐらいで、訴えられたりなんざしねえよ」
 踊り場のすぐ外側がレジカウンターになっていて、二人はそこに居た。話している事どころか、近くなった分、笑うジョシュアさんや呆れきったイーシュアンの声もバッチリ聞こえて、あれ、もしかしてこれ、立ち聞きってヤツになるのかな。
 不意に耳に飛び込んできた兄さんの名前についつい何も考えずにやってしまったけれど、思いついた途端にはっとして、わたしはその場に立ち竦んだ。
「大体、誰もお前に面倒見ろなんて言ってないだろうが。面倒見れないなら、見れるヤツのとこに行けば良いんだ。午前中ならリサリサもヒマしてるんじゃないのか?ああ、でも着る物の好みぐらいあるか。女の子なんだし、な?アンヘルちゃん?」
「ったく、情けねぇな。立ち聞きの趣味でもあんのかテメェ。バレバレなんだ、さっさと出て来いや」
 でも、立ちすくむ必要はあんまりなかったようだ。
 竦んだ瞬間に呼びかけられ、おそるおそる顔を出したわたしに、ジョシュアさんは「ちょっとは元気になったか」なんてにこにこと笑い返してくれたけど、イーシュアンは思い切り嫌そうな顔をして溜息をついたのだった。