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世界はひとつの音を奪った

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神楽という男(8/9更新)



 「パエリアお待たせいたしましたぁ。」
 カウンターの向かいから運ばれてきたのは、三つの取り分け皿と、大皿の料理。
 顔を上げた僕の前には、ハニーブラウンのロングヘアを右肩のシュシュで結って、柔らかい手つきでスプーンを配る彼女の姿。
 青山とか代官山とか、そういう所にいそうな雰囲気だ。
 「うおおおおおおっっ!」
 「にゃーーー!おいしそーーー!」
 暖かい湯気の立つパエリアを前に、僕とサトル君は歓声を上げた。
 どちらも久しぶりの豪華な食事なのだ。
 綺麗に色づいた海老や貝と、輝くお米。
 海外にも米の文化があってよかったとこういう瞬間には思いたくなる。
 「…で、でも僕が頼んだのはこんなに大きい量じゃないよ?」
 「ううん。僕がたのんだんだよーっ。」
 「…今日、サトル君、給料日だったっけ?」
 「えへへ~~」
 きょとんとする僕に、サトル君はにこやかに笑った。
 10代の少女の笑顔はなんと見ていて微笑ましいものか。
 そこに、パエリアを運んだウェイトレスの彼女が優しく話しかけてきた。
 「サトルちゃん。今日昇級試験に合格したんですって。」
 「ええ!?受かったの?!」
 そういえば、先月は何かが落ちたー、みたいな話をして少々落ち込んでいた気がする。
 僕なりに慰めてはいたのだけど、うまくいったつもりもない。
 彼女の…サトル君の成長は、なんだか嬉しくなる。
 「うん!これで少しお給料が上がるんだー。今日はささやかだけど僕のお礼。二人には実験台になってもらったしねー。カットモデルありがとでした!」
 「いやいや、僕は助かってるよー。銀髪気に入ってるしねー。」
 「アタシもよ。楽しいからまたヨロシクね。」
 「ありがとうノイズ君!神楽ちゃん!」
 サトル君の笑顔はさながら向日葵にも匹敵すると、僕は本気で思っている。