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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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その翌日のこと。
夕食の席で、話がある、と言われた。
まさか、という思いが胸いっぱいに広がる。
ここを出て行けなんていわれたら、どうしたらいいだろう…。
せっかく俊弥さんに紹介してもらったのに…。

不安で不安で仕方がなくなって鼓動が早くなるのがわかった。
僕の向かいに千晴さんと朱音さんが並んで座る。

「ごめんね、高校に行きたかったのよね?」
朱音さんの口から出たのは、思いも寄らない言葉だった。
「俺たちは、君は高校に行きたくないんだと思ってた。もちろん何か事情があるだろうことはわかっていたけど」
「あなたが高校に行きたいことをわかっていれば、もっとしてあげられることがあったのに」
もちろん、高校には行きたかった。
無理だってことくらいわかってるけど大学に行く夢を見たことさえある。
「昨日、朱音と話し合ったんだ。空流くんはやっぱり高校に行くべきなんじゃないかって」
「今からでも、遅くはないわ。来年、高校に入学したらどう?奨学金をもらいながら通える高校はたくさんあるし、ここを下宿として使ってちょうだい。下宿代は週末の掻きいれ時に今みたいなお手伝いをしてくれればいいの。それから、平日の家事も手伝ってくれるとありがたいけどね」

もしかして、ここで生活しながら、高校へ通っていいって言ってくれてる…?
二人が言ってくれるのは嘘みたいな事実。

二人の心遣いに涙が出そうになった。
どうして、あの人の周りにいるのは、みんないい人なんだろう。

誠司さん…。

思うたびに、苦しくて仕方がない。
でも、とても会いに行けない。

「ありがとうございます。すごく、嬉しいです。でも本当にもういいんです。高校にはもう行かないって決めてるから」
「でも…」
「今まで通りに働かせて下さい。それが一番嬉しいです」
そう言ってしばらくの沈黙の後、千晴さんがハァーと息を吐いた。
「わかった。でも高校に通いたいって思ったらいつでも言っていいからな。俺たちは気を変えるつもりはない」
「その言葉だけで、十分です」

話が終わると、いつもの夕食風景となった。
食事が終わって、食後のお茶を飲んでいると千晴さんがノートに挟んであった封筒を取り出した。
「空流くん、これはとりあえず半月分の給料。でもこれからは月払いで渡していこうと思うけど、それでいいか?」
え…?給料…?
「どうしたの?ぽかんとしちゃって」
朱音さんの言葉もほとんど耳に入らない。
「給料…って僕の、ですか?」
「それ以外に誰がいるんだ?」
千晴さんの切り返しはもっともだ。
「でも、僕は…ここに住まわせてもらってるわけだし…給料なんてもらっていいのか…」
再び千晴さんがため息をついた。
「あのな、君はここで住み込みで『働いてる』んだよ。働くのがメイン。住んでるのはついで。わかった?」
「はい…」
「じゃあ、はい。これ、給料と簡単だけど明細」
基本給があって、食費とか光熱水費とかは少しずつ引かれてる。
それでも、めったにみることなんかなかった万冊が入ってた。
「8月にはいったらもっともっと忙しくなるから、覚悟しておいてね」
「本格的なオンシーズンには従業員も少し増えるけどな」
生まれて初めて手にする大金に朱音さんと千晴さんの言葉はあまり耳に入らなかった。